I.意匠登録は、物品の形状、模様、色彩またはこれらの結合であり、視覚に訴える創作を主に保護するためのものである。逆に、形状が機能によってすべて決まるような、単に機能上不可欠な物品造形は、視覚に訴える外観を施すことが可能ないかなる創作スペースもない創作として、意匠権の保護対象にはならない。
II.物品の造形が純機能的なものであるか否かは、別の周知物品が必然的に相互連結する(must-fit)部分の基本形状のみによって決まり、その全体意匠はその他の周知物品において生じた必然的な創作の連結または組み立てに過ぎず、いかなる創作的思想も融合されていない場合、純機能的意匠の物品造形として、意匠を付与しないと認定すべきである。
III.本件と基準を照らし合わせて純機能的要素であるか否かを判断することは、周知物品の形状を有するか否か、意匠と対応する形状であるか否か、必然的に相互連結(must-fit)する唯一の形状であるか否かを確認することである。必然的に相互連結する場合、純機能的要素であると認定される可能性が高い。例えば、ボルトの意匠について、その意匠の特徴が別の周知のナットのねじ山に完全に対応している場合、純機能的な造形だと言える。
1.争点:係争意匠は純機能性物品であるか
2.判決番号:110年(2021年)度民専訴字第40号
3.係争意匠(原告の意匠):意匠D195617
4.判例紹介
(1)係争意匠の代表図
(2)原告の主張:
①.係争意匠の駆動端はさまざまな形状に変更可
特定のオイルパン用ドレンプラグはその中間部分に「一字型嵌合溝」を有するため、取り外し工具の駆動端にはその一字型嵌合溝にはめ込む嵌合凸部をのみを設けるもの、または取り外し工具の駆動端にはアーチ型凸部のみを設けて「一字型嵌合溝にはめ込む嵌合凸部は有しない」ものがある。当該嵌合凸部は単一の直線が延伸した直線リブや間隔をおいて直線的に配置された複数のバンプであってもよく、ここでの直線リブや複数のバンプの辺縁の形状は矩形、アーチ型もしくはその他の形態であってもよく、または複数のバンプは四角柱、円柱もしくはその他の形状の柱体であってもよい。
(3)被告の主張:
係争意匠の外観は純粋にドレンプラグに対応した構造である
係争意匠のアーチ型凸部の意匠的特徴は、乙1号証のムーブメントスロット20の技術特徴に対応するもので、係争意匠の2つの凸部の意匠的特徴(破線表示)は乙1号証の凹溝32の技術特徴に対応するものであるため、係争意匠の外観特徴は純粋に乙1号証のプラグの構造および取り外し機能に対応し、純機能的な物品造形であるのは明らかである。
係争意匠の出願前、乙1号証および乙2号証ではそれぞれ、係争意匠と必然的に相互連結される使用関係にある締結ねじ部材とプラグが開示されていた。乙3号証ではベンツのエンジンオイルパン用ドレンプラグ0029902017に対応する取り外し工具ET1604Gが開示され、乙3号証に開示された工具ET1604Gの物品形状も、ベンツのドレンプラグの構造に対応しており、相互連結させて使用されるものである。
(4)判決概要
①.係争意匠(取り外し工具)と周知のオイルパン用ドレンプラグの構造に必然的相互連結の関係はない
係争意匠の図面および係争製品の外観から、オイルパン用ドレンプラグの取り外しに用いる物品の駆動端の外観設計は同じではなく、異なる造形のプラグ取り外し工具を用いて、乙1号証のように同じ締結ねじ部材およびプラグを駆動することができ、取り外し工具と締結ねじ部材の外観造形は必然的な相互連結(must-fit)の関係ではないことが分かる。
②.取り外し工具は機能性だけでなく、視覚に訴えるための外観の選択も可能である
取り外し工具にはさまざまな設計方式があり、当該取り外し工具の外観設計には多様性があり、異なる造形の取り外し工具は同じまたは類似する機能を有することが分かる。したがって、当該取り外し工具は、オイルパン用ドレンプラグを取り外すという機能だけでなく、形状や表面の装飾に外観上の創作的変化を施す必要があり、完全に機能上の配慮のみに基づき作られた必然的に相互連結する基本形状ではないため、被告の抗弁は認め難く、係争意匠の取り外し工具は視覚性を兼ね備えているため、視覚に訴える創作に属することを認めるべきである。