スペシャルコラム
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近年芸能人と芸能事務所の間でたびたび発生する知的財産権に係る紛争について、以下のように分析する。
一、芸名と商標権
芸名やグループ名の商標は通常芸能事務所が出願人となり商標を登録する。しかし、台湾商標法第30条第1項第13号において、他人の肖像または著名な氏名、芸名、ペンネーム、屋号があるものに該当する商標は登録を受けることができないが、その同意を得て登録出願した場合は、この限りでないと規定されている。よって、現在の商標審査においては、芸能人本人の同意書の提出が必要となる。
また、前出の条項によると、登録を受けることができるのは、著名になった氏名や芸名に限られている。つまり、著名でない氏名と芸名の場合は、他人による商標出願登録が可能である。そのため、所属事務所退所後や契約終了後に、芸能人と芸能事務所の間で芸名の商標権が重大な問題になることがある。
二、契約終了後、芸能人が芸名やグループ名の商標権を取り戻す方法
(一)異議申し立て・無効審判を請求する
所属事務所が芸能人の同意を得ずにその芸名の商標登録出願をした場合、芸能人は異議申し立てや無効審判の請求により、当該商標権を無効にすることができる。商標が取り消されたら、事務所は芸名の商標権を失うため、芸能人は当該商標を再出願することが可能となる。ただし、異議申し立てと無効審判請求の提出には期限が設けられており、期限切れとなった場合、提出することができなくなってしまう。一方、もし商標出願の段階で芸能人本人による同意書が提出されていると、商標法第30条第1項第13号に基づき商標登録を取り消すことができなくなる。この場合、他の不登録事由に該当しなければ、芸能人は異議申し立てや無効審判を請求することはできない。
(二)不使用取消審判を請求する
芸能人は、所属事務所が登録商標を3年以上使用していないことを理由として、取消審判を請求することができる。商標登録を取り消せるか否かは、事務所が確実な商標使用の証拠を提示できるかどうかにかかっている。
智慧財産法院109年(2020年)行商訴字第101號判決では、番組におけるキャラクター名、キャラクター設定またはコスプレなどは、商標の使用に該当しないため、係争商標は確かに取消審判請求日の3年前から使用されていなかったと判断され、商標法第63条第2項に基づく商標登録取り消しの判決が下された。
三、契約終了後、芸能人が芸名の使用を継続する方法
(一)合理的な使用を主張する
台湾商標法第36条第1項第1号によれば、商業取引の慣習に符合する誠実且つ信用できる方法で、自己の氏名や名称を表示するが商標として使用しない場合は、他人の商標権の効力による拘束を受けない。
芸名は芸能人やインフルエンサーなどの氏名権に属し、民法第19条により保護されるべきものであるため、芸能人は、商業取引の慣習に符合する誠実且つ信用できる方法で、自己の氏名・名称を表示すればよい。また、判例によれば、合理的な使用を主張するには、芸能人が芸名を商標として主観的な意図で使用するのではなく、説明的に使用しており、消費者にもそれを商品・役務の出所を識別するための商標として認識させていないことが必要である。
(二)善意による先使用を主張する
台湾商標法第36条第1項第3号において、他人の商標権の効力による拘束を受けない状況は、「他人の商標の登録出願日前に、善意で同一または類似の商標を同一または類似する商品または役務に使用する場合。但し、それは原使用の商品または役務に限る。その場合、商標権者は該商標を使用する者に対して、適当な区別表示の付記を要求することができる。」と規定されている。