中国政府は16日夜、王文涛商務相がTPP=環太平洋パートナーシップ協定への加入を正式に申請するための書面を、協定の取りまとめ役のニュージーランドの担当相に提出したと発表しました。
中国は去年11月、東アジアを中心に15か国が参加するRCEP=地域的な包括的経済連携に合意し、TPPについても習近平国家主席が「加入を積極的に検討する」と述べて意欲を示していました。
対立するアメリカが、トランプ前政権時代にTPPから離脱し、バイデン政権になっても早期の復帰に慎重な姿勢を示す中、中国としてはTPPへの加入を目指すことでアジア太平洋地域での影響力を高めるねらいがあるとみられます。
TPPには日本をはじめとした11か国が参加していて、ことし2月にイギリスが加入を申請しています。
ただ中国はTPPに参加するオーストラリアなどと貿易面での摩擦を抱えていて、加入に必要なすべての参加国の同意を得られるかは不透明です。
またTPPには貿易や投資のルールについて、国有企業に対する行き過ぎた優遇措置の是正や知的財産の保護など高い自由化を求める規定があるため、中国の加入に向けた今後の交渉には曲折も予想されます。
中国政府がTPP=環太平洋パートナーシップ協定への加入を正式に申請したと発表したことについて、日本政府の関係者はNHKの取材に対し「協定の取りまとめ役のニュージーランドを通じて、事実関係を確認中だ」と述べました。
中国の加入をめぐって、TPPを担当する西村経済再生担当大臣はこれまで中国が、TPPの高いレベルのルールや市場アクセスを満たす決意があるのか見極めなければならないという考えを示しています。
また、別の日本の政府関係者は「TPPの加盟には日本を含む締約国の合意が必要で今後、議論することになる。ただ、ハードルは高い。中国は国有企業の優遇措置をとっているほか、国境を越えたデータの自由な移転が確保されておらず、TPPが求める高い基準をクリアできるか見極めていく必要がある」と話しています。
米 報道官「参加国が判断すること」
アメリカ・ホワイトハウスのサキ報道官は会見で「参加国が判断することだ。アメリカはこの地域の国々との経済的な連携や関係を続けていく」と述べました。
そのうえで「バイデン大統領は当初提案されていた内容のTPPには再加入しないと明言している」と述べ、アメリカの立場に影響は与えないとしています。
一方、アメリカ国務省の報道担当者は「われわれは、TPPの参加国が中国を加入の候補国として評価する際、中国が市場原理に基づかない貿易を行い、ほかの国々に対して経済的な強制力を行使している点について、考慮することを期待している」としています。
米 バイデン政権はTPP早期復帰に慎重姿勢
アメリカのバイデン政権は、TPPへの早期の復帰について「国内の労働者の保護を優先する」として、これまでのところ慎重な姿勢を示しています。
アメリカは、バイデン大統領が副大統領を務めていたオバマ政権時代に、アジア太平洋地域で主導権の確保をねらう中国に対抗する思惑もあってTPPの交渉を推進してきました。
しかし、自由貿易はアメリカの雇用を奪うと主張したトランプ前大統領が交渉からの離脱を表明し、国内の製造業の労働者などから一定の評価を得ました。
こうしたことも踏まえ、バイデン大統領も中間層の拡大を掲げ、労働者や家計を重視した経済・貿易政策を進めています。
ことし1月のバイデン政権発足直後、ホワイトハウスのサキ報道官は「バイデン大統領はTPPは不完全であり、改善する必要があると考えている」と述べていました。
ただ、バイデン大統領は中国との貿易について、同盟国や友好国など多国間の連携によってルールづくりを進めて対抗していくという立場をとっているため、中国のTPP加入に向けた交渉の状況には神経をとがらせることになりそうです。
アメリカは来年、中間選挙を控えていて、TPPをめぐってバイデン大統領は国内の世論と中国の脅威をにらみながら難しい対応を迫られる可能性があります。
TPP=環太平洋パートナーシップ協定とは
TPP=環太平洋パートナーシップ協定は2018年12月30日に発効しました。
日本のほか、オーストラリアやカナダなどアジア太平洋地域の11か国による経済連携協定で、2018年時点で世界全体のGDP=国内総生産の13%、貿易額の15%、人口5億人をカバーしています。
日本が輸入する農業品や工業品などのうち品目数ベースでおよそ95%、輸出品では100%近くで関税が即時、または段階的に撤廃され、日本がこれまで結んだ自由貿易協定の中で最も高い水準となります。
TPPへは当初はアメリカも交渉に参加し、2015年10月に大筋合意しましたが、2017年1月、2国間の交渉を重視するトランプ政権がTPPからの離脱を表明しました。
その後、イギリスがことし2月にTPPへの加盟申請を行い、加入に向けた参加国の交渉が始まっています。
日本政府としては、6000万人以上の人口を抱え、フランスとならぶヨーロッパの経済国であるイギリスがTPPに加入すれば、高いレベルでの貿易や投資のルールをアジア太平洋を越えて広げる一歩になると期待しています。
TPPをめぐっては、申請を表明した中国のほかに、韓国も参加の意欲を示しています。
一方、日本や中国、韓国など東アジアを中心に15か国が参加するRCEP=地域的な包括的経済連携は、世界のGDPと人口のおよそ30%をカバーし、世界最大規模の自由貿易圏ですが、関税の撤廃率や自由貿易をめぐるルールはTPPの方が高い水準となっています。
出典:
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210916/k10013263621000.html