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人はなぜキーボードを自作するのか? “キーボー道”への誘い
2018-03-13
 

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人はなぜキーボードを自作するのか? “キーボー道”への誘い

2018-03-13

 スマホやタブレットユーザーがPCユーザー人口を上回っていても、長文入力には物理キーボードを使うという人がいるだろう。

 

 いわばキーボードは人間の手の延長にあるデバイスなのだ。ゆえにキーボードには強いこだわりを持つ人がいる。そしてその中にはまだ見ぬ“Endgame(究極の)キーボード”を求めて日々キーボードショップ(あるのか?)をさまよい続けるのだ。

 

 しかし、Endgameキーボードが簡単に見つからない場合も珍しくない。キーの配列が、デザインが、タイピングの感触が気に入らないなど、既成のキーボードに不満を感じる人も多いのだ。

 

 近年、海外のサイトgeekhackやredditなどでキーボードを自作するマニアが増えており、その波が日本にも到来した。

 

 キーボードを自作するための知識がない人もいるだろう。そんな“キーボー道”の門を叩き、キーボード沼の深淵へと誘うための知識を紹介するのがこの企画。キーボード好きを自認するなら、ぜひ沼の最深部に挑んでいただきたい。

 

キースイッチの違いを知るのが

キーボー道への近道

 

 キーボードを構成する要素は「キーの配列(数)」から「キーキャップ形状」「インターフェース」「付加機能(マクロなど)」さまざまあるが、とっかかりとして一番分かりやすいのは「キースイッチの種類」だ。つまりキーを押すという動作をどういう仕組みで検知するかが、キーボー道では非常に重要なのである。

 

 キースイッチの種類にはいくつもの方式があるが、ここでは代表的なものに絞って解説する。

 

メンブレン式

 

 実売数百円の安キーボードや安ノートPCのキーボードに多いのが「メンブレン」と呼ばれるタイプ。2枚のフィルム基板に接点と回路を用意し、上にラバーカップ、最上部にキーキャップを配置する。押下する圧力はラバーカップが吸収し、一定の圧力でカップが“ヘコッ”と潰れた時にフィルム基板上の接点が接触、通電するという仕掛けだ。

 

 安く作れるのが最大のメリットだが、タッチがソフトで静かなため、安価なメンブレンでも固定ファンが多い。逆に打鍵感のキレが曖昧になりやすい、あるいはしっかり底まで押し込まないと反応しない、安さ重視ゆえにキーの同時押し数に制限がある(すべての製品ではない)といった特性を嫌う人もいる。

 

 最近は、Razerなどがメンブレン式にメカニカル式(後述)の機構を組み合わせ、メンブレンなのにメカニカル風の打鍵感や音をプラスしたキースイッチを開発している。

 

 ちなみにノートPC用キーボードで多用される「パンタグラフ式」は、基本的にメンブレン式だが、樹脂や金属製のパーツでキーキャップが均等に沈み込むような機構を加えたものだ。キーストロークが浅く、滑らかに動作するのが長所。反面耐久性や全体の剛性感が犠牲になりやすい。

 

静電容量無接点式

 

 キーキャップの下にスプリングが仕込んであり、これが押しつぶされて変形すると、検出回路が検知する電荷も変化する。この変化を捉えて押下を判定するタイプだ。

 

 物理的接点がないので、耐久性が良い(セブンイレブンのATMでも使われている)こと、チャタリング(後述)の心配がないこと。さらに電荷量の判定基準を変えれば、どこまで押下すれば“押された”と判定されるか、即ち「トラベリングディスタンス」を変更できるなど、優れたメリットを備えている。欠点は回路設計が難しいことだ。

 

 国内では東プレの「Realforce」シリーズが有名だが、韓国の「Leopold」、中国の「NiZ」など、同種のスイッチを使用したキーボードも出回っている。

 

メカニカル式

 

 高級キーボード、特にゲーミングキーボードで圧倒的に多いのが“メカニカル”。メンブレンや静電容量無接点式と違い、個々のキースイッチは小さなパッケージに格納されており、必要な数だけ並べて使用する。押下時の反発力やフィーリング、打鍵音などはキースイッチ内部のバネや軸などの構造で決まるため、さまざまなキースイッチが作られている。

 

 メカニカル式の欠点は物理接点に頼る構造ゆえ接触不良が起こると“チャタリング(1回の押下で何度も反応してしまうこと)”が発生すること、そして特別な対策をしない限り、打鍵時の音がメンブレンや静電容量無接点式よりも大きくなってしまうことだ。

 

 メカニカル式のキースイッチは多数のメーカーで製造されており、仕様の差異のほかにメーカーごとのテイストの違いがキーボー道住人の心を惹きつける。メカニカル式で最もメジャーなのはドイツCherry社が設計している「Cherry MX」シリーズたが、同シリーズの特許切れに伴い、Gateron、Kailh、Outemu、Greetechといった“中華メーカーのクローン品”が多数出現している。

 

 RazerやEpig Gearなどのゲーミングデバイスメーカーも独自スイッチを擁しているが、基本的に中華メーカーのOEM品だ。

 

 このCherry MX互換キースイッチ最大のメリットは、Cherry MX対応キーキャップなら、メーカーを問わず装着できること。市販されているCherry MX対応のキーキャップは、キーキャップが他のキーと干渉するといった物理的な制約がない限り、どんなキーボードにも装着できる。

 

 また、静電容量無接点式キーボードでもCherry MXのキーキャップが使えるような機構を持つものであれば装着できるなど、「Cherry MX互換」というキーワードはキーキャップ界の共通規格と言ってもいいだろう。

 

 ゲーマー向けのカスタムキーキャップや、キャラや造形に凝ったキーキャップ(Artisan Keycapと呼ばれる)が存在するのも、このおかげだ。

 

 Cherry MX以外にもメカニカル式スイッチはあるが、アルプス電子のスイッチ(AppleのExtended Keyboardなどの採用実績あり)は現在消滅し、台湾のTai-HaoやカナダのMatiasが互換スイッチを細々と出している程度(専用のキーキャップが必要)。

 

 またロジクール「Romer-G」、SteelSeries「QX2」など、ゲーミングデバイスメーカーが自らキースイッチを開発する流れも生まれている。

 

 今後もCherry MXと互換性のない独自キースイッチはこれから増えていくだろうが、汎用性の高いCherry MX互換勢力を超える勢いはない。

 

その他

 

 メンブレン、静電容量無接点、メカニカルがキースイッチの3大勢力といえるが、その他にも古のIBM 101キーボードなどで採用された「バックリングスプリング」式、Zowie製ゲーミングキーボードに採用されているWooting製「Flaretech」スイッチなど、さまざまな機構・種類のスイッチがあるが、今回は割愛したい。

 

なぜ自作キーボードには

メカニカルが向いているのか?

 

 さて、こうしてキーボードに使われるスイッチを知ったところで、改めて自作キーボード沼からスイッチを眺めると、沼の住人達はCherry MXまたはCherry MX互換のメカニカルキースイッチを使う人が多い(最近はMXと互換性のないロープロファイルスイッチも徐々に増えてきた)。

 

 その理由はスイッチ機構が小さなボックスにまとまっているため、必要なキーの数だけ調達し、ケースを作って固定すればよいからだ。フィルムや基板製造が必須のメンブレンや静電容量無接点式はこう簡単にはいかない。

 

 さらにキースイッチの選択が豊富にあり、自分に合ったタッチのものを組み合わせることができる。そこで、代表的なCherry MX互換メカニカルキースイッチに関して、大ざっぱな特性をまとめておくことにしよう。

 

 Cherry MX互換のキースイッチは、基本的にメーカー名と「軸の色」で識別する。キーボードのスペック表に“中華赤軸使用”などと書かれていることがあるが、これは「Cherry MX 赤軸と特性が似てるけど、GateronやKailhなどの中華メーカーの同等品を使っている」という意味なのだ。

 

 今回は打鍵時のフィーリングを軸に、各社どんなスイッチがあるのかという観点からまとめてみた。次ページ以降のカッコ内の数値は、キーの重さ(アクチュエーションフォース)を示す数値で、これが大きいほど重く感じる。ただこの数値も誤差があるうえ、公式サイトと販売サイトで記載されている数値が違うこともあるので、目安として捉えていただきたい。

 

クリッキータイプ

 

 クリッキー(Clicky)タイプのスイッチとは、キーを押下し接点まで到達すると“カチッ”と明確な音が鳴るタイプだ。Cherry MX 青軸スイッチが一番有名なので“青軸タイプ”と分類してもいいだろう。

 

 打鍵感のキレを聴覚的にも演出できるので、軽快に打鍵できる(ように感じる)。反面カチカチと音がするので、オフィスや深夜での使用は、周囲から不満が出ることを覚悟しなければならない。

 

タクタイルタイプ

 

 Cherry MX 茶軸を代表とするタクタイル(Tactile)タイプのスイッチは、キー押下時から徐々に重くるソフトな抵抗があり、一定距離押し込むとカックンと押し込まれるタイプだ。青軸タイプから“クリック音”を削除したタイプといえる。

 

 押した感触が“カックン”でフィードバックされるので、軽快なタイピング感を演出できる。メンブレン式キーボードも、触感的にはタクタイルタイプに分類できるだろう。

 

リニアタイプ

 

 リニア(Linear)タイプとは、タクタイルタイプのように“カックン”とならず、スッと指が沈み込む(反発力はキーを押し込むと重くなる)。青軸や茶軸タイプのようにフィードバックはないが、バネの軽いものは力を入れずに入力できることで人気を集める。

 

 リニアタイプのスイッチはキーの重さに注目したい。メカニカルキーボードでは定番のCherry MX 黒軸は赤軸に対してかなり重いが、キーの戻りが早いことや、力の強い人にはこの位でないと物足りないなどの理由で一部のユーザーに人気がある。

 

 Cherry MXのリニアタイプは赤と黒が定番だが、Gateronでは羽根のように軽い35gのクリアー軸や、赤と黒の中間的な黄色軸(50g)なども用意されている。

 

Speed軸タイプ

 

 キーのフィーリング別分類とはちょっと離れるが、あえて最近ゲーマー向け高級キーボードに採用されている「Speed軸」は別枠として語っておきたい。

 

 Cherry MX互換のキースイッチにおける反応するまでの距離、即ちトラベリングディスタンスは2mm前後になっている。だが高速入力するゲーマー向けにトラベリングディスタンスを1.2mm近辺に切り詰め、より浅いストロークでも反応できるようにしたものを“Speed軸”と呼んでいる。

 

 一番有名なのが、先行独占契約でCorsairしか使えなかったCherry MXの通称“銀軸”と呼ばれるタイプだが、最近はようやくCorsair以外にもSpeed軸採用が出てきた。Cherry MXのSpeedはリニアな銀軸だけだが、KailhはタクタイルやクリッキーなSpeed軸も製造している。

 

さらに沼深きキースイッチModという世界

 

 さらに業の深いマニアになると、キーキャップの下に静音用のOリングを追加する、あるいはキー内部をグリスアップ(Lube、あるいはLubingと呼ぶ)して打鍵音を抑える、といったテクニックで自分好みのスイッチを作り上げる。さらにディープな者はA社のハウジングとB社の内部パーツを組み合わせるなどの合体技を駆使する者もいるのだ。

 

 さて、ようやくキースイッチの解説が終了した訳だが、実際にメーカー製キーボードに使われているのはこの一部に過ぎない。Chrry MX 青・茶・赤・黒がメインで高級ゲーマー向けにSpeed軸、安いキーボードだと中華軸になるが、それでも赤・青・茶程度しか使われない。

 

 メーカーの在庫を考えると仕方のないところだが、荷重35gのGateron クリアー軸が使いたい! とかKailhのBox軸が使いたいという人は、メーカーが採用するまでじっと待つしかないのだろうか……いや違う。好みのスイッチを使って自作すれば良いのだ!

 

配列も考えてみる

 

 キースイッチの違いの次に分かりやすいのは、キー配列だろう。日本国内ではカナ入力する人もいることも手伝い「JIS配列」が一般的だが、アメリカでは英語配列こと「ANSI配列」や「ISO配列」がある。ヨーロッパやアジア圏に行けば、配列も微妙に違う。

 

 キーの配列でもう1つ考えなくてはならないのが文字キー以外の修飾キーなどの形状や配置だ。例えばEnterキーはJIS配列では逆L字型の大きなものが一般的だが、ANSI配列では横長のEnterキーが使われる。Aキーの横にCaps Lockキーを置くのが一般的だが、Ctrlキーを置きたい人もいるだろう。

 

 キー配列のカスタマイズ程度なら、多少は備えているキーボードはあるが、キーの大きさだけは妥協するか、次のキーボードを探すしかない。

 

全体のサイズにもこだわる

 

 テンキーがあるとその分机を占領するので、テンキーなしの配列を好む人もいる。ファンクションキー(Fキー)は、使わない人にとっては無駄なスペースだし、カーソルキーは使うが、PgDnやHomeといったナビゲーションキーは使わない人もいる。

 

 フルサイズのキーボードはさまざまな機能のキーを一度に詰め込める点は有利だが、自分の欲しい機能をコンパクトにまとめたキーボードに美しさを見いだす人もいるだろう。

 

 自作キーボードの世界もこれを反映してか、フルサイズのキーボードよりも、コンパクトさを追求したキーボードの方が多い。単純にキースイッチの数が少なくて済むので、予算が抑えられるというメリットもあるが。

 

 また、JISやANSIといったキー配列のほかに、キーの並び方にも注目したい。世間一般では、キーボードの下の段へ行くほど少しずつ右ズレる「Row-Staggered」と呼ばれる並びがデファクトスタンダードになっている。

 

 だが、これはホームポジション(左手ならASDF)に指を置いた時に、ナナメ右下に指を動かす効率の悪い運指になる。

 

 そこでエルゴノミクスを考慮したキーボードでは、指を自然に上下させただけで(タイピング的に)正しいキーに到達できる「Column-Staggered」、自作キーボード界では格子状に配置されている「Ortholinear」といった並びも採り入れられている。

 

 「指の運指コスト」を抑えることで、タイピングのストレスを少しでも減らすのが目的だ。

 

QWERTY以外の文字配列もある

 

 さらに言えば、文字の配列もデファクトスタンダードであるQWERTYは決して効率のよい配列ではない(TYPEWRITERという文字を素早く打てるようにするためあえてこうしたとか、諸説あるが……)。

 

 利用頻度の高いキーをホームポジション付近に集めるとか、母音と子音を左右に分けて交互撃ちできるようにした配列などが今でも開発されている。

 

 DrovakやColemakといったモダンな配列のことを耳にした人もあるだろう。比較的古いDrovakはOS側でサポートされていることもあるが、それ以外の配列を使いたい場合は、自分でカスタマイズする必要がある。

 

 OS側でキーマップを変える方法や、キーボードのマクロ機能を使って入れ替える方法があるが、自作キーボードならキーの配置はいかようにでも変更できる。Aのキーが左右に1つずつあっても良いのだ。

 

 市販のキーボードはスタンダードなRow-Staggeredな配列が大多数。キー数を絞ったモデルもあるが、配列に関しては保守的な製品が多い。ISO Enter&テンキーなし、Aキー横がCtrlキーでスペースバー大きめが良いといったニッチな好みに応えてくれる製品が出るまでじっと待つのか……いや違う。好みの配列がなければ、好みの配列のキーボードを自作すれば良いのだ!

 

 というわけで第1回はこれで終了だ。次回はキーボード自作に挑戦するが、難度の低いところから攻めて行く予定だ。

 

 

出典:http://news.nicovideo.jp/watch/nw3352347