スペシャルコラム
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1.台湾の実用新案は形式審査のみのため、権利範囲が過大になったり、権利化されるべきでない技術が登録されたりすることがある。 実用新案権の不当な利用により、第三者による技術の開発や利用に支障をきたしたり、取引の安全性に重大な影響を及ぼしたりすることを避けるため、実用新案権者は慎重に権利を行使する必要がある。 2.本件について智慧財産法院(台湾知財裁判所)は、被告は侵害鑑定報告書を提出しており、故意ではなかったかもしれないが、被告に過失責任がないとは言えず、 被告は、十分な注意を怠ったことにより原告に与えた損害について、賠償責任を負うべきという判断を下した。 3.今後、実用新案権者は、実用新案権に関する警告を行う場合、実用新案技術評価書を提示することが奨励される。もし、侵害鑑定報告書のみで、実用新案技術評価書がない場合、現在の実務上の見解では、損害賠償が発生する可能性が高い。 |
一、争点:実用新案技術評価書を提示せず、第三者に警告するのは可能か?
二、事件番号:109年度民専訴字第60号
三、係争実用新案:実用新案登録M536321号
四、判例の簡単な説明
1.原告の主張:
①被告は警告を行う際、実用新案技術評価書を提示しなかった
2018年2月、被告(世正光電股份有限公司)は、インターネット上で原告(誠益光電科技股份有限公司)が被告の係争実用新案権を侵害していると主張し、原告の製品をオンラインプラットフォームから削除するよう求めたが、被告はその際に当該実用新案の技術評価書を提示していなかった。同年3月、被告は智慧財産法院(台湾知財裁判所)に専利侵害訴訟を提起し、同法院は係争実用新案に進歩性がないと判断し、この訴訟を却下した。
➁被告の実用新案権は無効
原告は専利侵害訴訟に勝訴した後、2018年11月付けで智慧財産局(台湾特許庁)に無効審判請求を行い、被告は期限内に答弁書を提出しなかったため、無効が成立し、当該実用新案権の取り消し処分が下った。
➂被告は専利法第117条に基づき、損害賠償責任を負うべき
2.被告の主張:
①専利法第117条の規定に違反していない
憲法第16条において人民は訴訟の権利を有すると規定されており、この条項の権利保障範囲には、人民の権益が不法に侵害された場合、司法機関に救済を求める訴えを提起する権利が含まれている。実用新案に基づく訴訟の場合、実用新案技術評価書の提示は法的要件ではないため、訴訟権は正当かつ合法的に行使されており、専利法第117条の違反行為には当たらない。
➁権利侵害鑑定報告書を提出済みであり、故意・過失ではない
被告が前訴を提起した際、特許商標事務所に依頼して提出された係争鑑定報告書によれば、原告の係争製品は被告の権利の侵害に当たると認められ、主観的にも、原告の製品が係争実用新案権を侵害したことに対し、被告は可能な限りの注意を払って実用新案権を行使しており、故意・過失による不当な権利行使ではないと確信している。
➂発明特許と実用新案の二重出願により発明特許が登録されたため、実用新案権を維持する必要がなくなった
被告が出願した発明特許は2018年12月1日に登録され(登録番号:I642568)、被告は係争実用新案権を維持する必要がなくなったため、原告の無効審判請求に対して答弁を行わなかった。無効審判の結果、係争実用新案権は取り消されたが、それは純粋に被告が答弁書を提出しなかったからである。しかし、被告は同じ技術について発明特許の出願も行い登録に至っているため、無効審判の権利取り消し処分は、係争実用新案が登録上有効であるための要件を満たさないことの証明にはならず、また、被告が故意・過失により係争実用新案権を不当に行使したことの証明にもならない。
3.判決内容
①権利侵害鑑定報告書は実用新案技術評価書の代わりにはならず、過失責任がないとは言えない
被告が前訴を提起した際に提出した関連証拠の中に実用新案技術評価書は含まれておらず、特許商標事務所が発行した権利侵害鑑定報告書は提出されているが、これは前訴の提起時に故意に実用新案権を不当行使したのではないことを証明したに過ぎず、過失がなかったとは言えない。
➁被告は発明特許出願の審査中、同出願が登録されない可能性も予見し得たので、過失責任がないとは言えない
智慧財産局の特許出願審査過程において、2017年10月25日および2018年3月30日付けで、当該発明特許出願は進歩性および明確性の規定を満たしていないという旨の拒絶理由が被告に通知された。これらの拒絶理由通知から、被告は前訴提起の前後において、係争実用新案の請求項1の考案と同じ内容である発明の特許出願が、登録されない可能性があると認識していたのは明らかである。ただ、被告は係争実用新案の技術評価書を請求したことはなく、また、外部の公正かつ客観的な立場の機関に、係争実用新案登録の有効性に対する鑑定を行うべきか相談したこともない。したがって、被告が可能な限りの注意を払い過失はなかった、と認めることはできない。
➂専利法第117条の規定に基づき、原告が被告に支払いを請求する賠償金は144,000新台湾ドルとする。