スペシャルコラム
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特許の範囲や要件を解釈する際、発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者である「当業者」(PHOSITA:person having ordinary skill in the art)が、出願時の技術水準に基づいて判断することになる。特許法では、この当業者を架空の人物として規定しているが、実際は審査する者(審査官または裁判官)が中立的な視点から、出願時の客観的な技術水準に基づき、当該特許が特許要件や権利範囲を満たしているか否かの判断を行うことを目的としている。
審査実務において、判断する者が当業者の視点から公正な判断を下すことは容易ではない。第一に、審査官や裁判官は当該分野での実務経験はなく、背景知識は審理案件の処理経験を通じて蓄積されることが多い。第二に、大量の案件を見てきたことで、多くの技術の特徴や構造について、ある程度の印象は持っていても、実際の関連技術の問題について深く理解しているわけではない。したがって、上述の二点から、後の特許審査において、後知恵が生じやすくなる可能性がある。それは、ある分野が高度に成熟している場合、実務上の小さな変更でも、その分野の専門家による大量の実験開発やテストが必要になり得ることが原因である。しかし、特許の進歩性を判断する際、複数の文献を引用し、これらの文献には部分的に類似した構造や特徴が開示されている可能性がある。この場合、審査官は、明細書の段階を追って難しくなる内容から生じる「後知恵」により、「容易になし得る」と判断し、「進歩性がない」と結論づけやすくなってしまう。
最高行政法院の判決
台湾において行政事件を管轄する最上位の裁判所である最高行政法院により、2021年10月に、興味深い判決(最高行政法院110(2021)年度上字第597号)が下された。この判決は審査官や裁判官にとって大きな挑戦となった。最高行政法院は、審理を原審に差し戻したのは、原判決では、20年以上前の技術水準を調査せずに判断が下されたが、職権に基づく証拠の調査が行われず、判決に理由不備があったのは違背であるためとした。
係争特許は、1995年10月17日に出願された「コマンドレスプログラマブルコントローラー」の発明である。智慧財産局(台湾特許庁)に無効審判が請求され、一部について無効が成立したために、上訴人は、それに対して訴願法による不服申し立てを行い、棄却されたことにより、本件の行政訴訟を提起した。原審では、職権により参加者は単独で本件訴訟に参加するよう命じられ、108(2019)年度行政訴字第41号の行政判決により原審での訴えは棄却された。上訴人はさらにその決定を不服として、最高行政法院に上訴した。
判決内容の抜粋:
「上訴人は原審において、係争特許が進歩性を有するか否かを正確に判断するためには、20年以上前の当該技術分野における通常の知識を有する者の認識条件を把握していなければならないと繰り返し主張した。係争特許は、20年以上前はマイナーで難解な技術であったため、現在の技術者には極めて馴染みが薄く難しい。当時の業界で高名であった当該技術の専門化を証人として出廷させ、当時の技術認識の真の状態を明らかにすることが望まれる…(原審卷二の53ページ参照)。前述の規定および説明の趣旨によると、上訴人のこの主張は係争特許の進歩性の判断に関するところであり、裁判において調査されるべきであった。ところが、原審では、調査が行われず、その主張が認められない理由の説明もなく、上訴人の不利な判決となった。職権による証拠調査を行わなかったことと、判決の理由不備は違背であるといえる。」
これまで、審査官は自分自身を当該技術分野の専門家であると仮定する必要があったが、それは容易なことではなくなっている。無効審判請求において古い年代の特許について審査を行う際は、知識状態を過去に戻す必要もあるかもしれない…。