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台湾 判例紹介₋最高行政法院(最高行政裁判所)108(2019)年度上字第1083号

1.判決番号:最高行政法院108年度上字第1083号
2.注目ポイント:
(1)明細書に内容が開示されていない場合、図面のみに基づいて技術的特徴を補正し、請求項を減縮することは可能か?
(2)主要な引用文献を副次的文献と入れ替えた場合、新証拠に該当するか?
(3)請求項で定義された要素について、明細書で言及されていない場合、どのように範囲を定めるか?
3.事件の概要
係争特許は、登録時に専利法(特許法)第120条において準用する第22条第2項の規定に違反したとして、106(2017)年7月5日付で無効審判を請求された。107(2018)年6月4日、上訴人(特許権者)は係争特許の請求項について補正書を提出した(請求項1を補正し、請求項5から9を削除した)。被上訴人(特許庁に相当する智慧財産局)の審査を経て、その補正が規定に適合していることが認められ、当該補正書の審査に基づき、同年10月9日付の(107)智専三(三)05123字第10720943090号専利挙発審定書(特許無効審判審決書)により、「107(2018)年6月4日付の補正事項について、補正を認める」、「請求項1から4及び10については、無効審判の請求が成立し、取り消すべきである」、「請求項5から9については、無効審判請求を棄却する」という旨の処分が下された。上訴人は、前述の無効審判請求が成立した部分についての処分(以下、原処分という)に対して不服を申し立て、訴願を経て行政訴訟を提起し、訴願決定及び原処分の取り消しを求め、係争特許の請求項1から4及び10については無効審判請求不成立の審決がなされるべきであると訴えた。智慧財産法院(2021年7月1日付で智慧財産法及商業法院に改名、日本語:知的財産裁判所→知的財産及び商事裁判所、以下原審という)が、108(2019)年度行専訴字第33号行政判決(以下、原判決という)によりこの訴えを棄却した後、本件の上訴が提起された。
4.係争特許
(1)補正後の請求項1
1.フレーム本体を備える収容フレームであって、前記フレーム本体の内側壁には複数の互いに平行なレール溝が形成され、前記フレーム本体の相対する2つの側面には気流を通過させる開口を有する収容フレームと、複数のフィルター部材であって、各前記フィルター部材はそれぞれ互いに平行に前記レール溝上を滑動して前記収容フレーム内に嵌合するフィルター部材と、を含み、前記複数のフィルター部材は、ろ過面が気流の通過方向に垂直かつ前記2つの開口に平行に設置されることにより、気流は前記複数のフィルター部材を順に通過してろ過されることを特徴とする、複合フィルター。(下線部分が補正された箇所)
5.上訴理由
(1)証拠4は一般的な空気清浄機の改良構造に関するものであり、係争特許の請求項1のケミカルフィルター分野における「複合フィルター」とは明らかに技術分野が異なり、その技術内容及び考慮すべき要素も異なる。原判決では、係争特許の請求項1が保護する対象を明らかにできておらず、正確な特許請求の範囲の解釈ではなく、その判断は提出された証拠と明らかに矛盾しているため、判決の理由不備の法令違反である。
(2)本件の争点は証拠3と4を組み合わせることにより、係争特許の請求項1から4及び10が進歩性を有しないことを証明できるか否かにあり、上訴人もこの争点を訴訟手続きにおける攻撃防御の対象としている。原判決は、証拠4を主要な証拠とし、請求項1が進歩性を有しないことが証明できる証拠であると認め、上訴人から補正書提出の手続き上の利益を奪ったが、これは智慧財産案件審理法(知的財産案件審理法)第33条第1項の規定に違反する。
(3)上訴人が主張する、係争特許の請求項2でさらに定義されている「密封部材」は、ケミカルフィルターを単一のフィルター部材から「複合フィルター」に改良したことを考慮して理解されなければならない。単独交換可能なフィルターと複合フィルターの気密性を維持するという特徴を組み合わせ、従来のケミカルフィルターの欠点を改善することは、上記特許請求の範囲にも明細書にも開示されていない。したがって、原判決が、上訴人の上記の重要な攻撃防御方法について何ら言及しておらず、また、係争特許の技術分野を正しく明らかにできておらず、その結果、係争特許の請求項2でさらに定義された「密封部材」の技術的特徴を正しく明らかにすることができておらず、判決の理由不備という法令違反があるという点が上訴人の主張の趣旨である。
6.(裁判所)の決定
(1)特許の請求項1の複合フィルターと証拠4の空気清浄機は、いずれも空気をろ過する機能を有する構成要素であり、空気ろ過に関連する技術分野に属している。両者が解決しようとしている空気中の汚染物質の問題には共通性があり、また、両者のフィルター部材を利用して空気をろ過する機能や作用にも共通性がある。したがって、当該技術分野について通常の知識を有する者が証拠4の空気清浄機の寸法を変更することを簡単に試して係争特許の請求項1の複合フィルターを容易に完成させることができるという、原審の判断に矛盾はなく、判決の理由不備のような法令違反はない。
(2)証拠4は、無効審判請求の段階で提出されたものであり、口頭弁論終了前に、同一の取消理由又は無効理由について当事者により提出された新証拠ではない。また、口頭弁論については、係争特許の技術的特徴と証拠との関係に対する包括的な対応であり、実質的には依然として係争特許の技術と証拠の関係に焦点を当てており、その範疇を超えるものではなく、双方は法廷で資料を提出して説明している。 当事者は準備プロセス及び口頭弁論プロセスの両方で上記の争点について陳述しており、原審において、当事者によりすでに事実及び法律について完全な弁論がなされていた。
(3)証拠4の明細書7頁後ろから2行目には、「テフロンシート(15)の前面に設けられ、密閉、防振、吸音の効果を有するスポンジシート(16)」と記載されており、証拠4に開示されたハニカム状フィルター(4)、ハニカム状活性炭フィルター(7)及びスポンジシート(16)は、係争特許出の請求項2のフィルター部材及び密封部材に相当すると認められる。したがって、証拠4ではすでに係争特許の請求項2に属する技術的特徴が開示されており、係争特許の請求項2と同等の効果を達成できることを十分に説明している。以上のことから、「単独交換可能なフィルターと複合フィルターの気密性を維持するという特徴を組み合わせ、従来のケミカルフィルターの欠点を改善することは、上記特許請求の範囲にも明細書にも開示されていない。したがって、原判決が、上訴人の上記の重要な攻撃防御方法について何ら言及しておらず、また、係争特許の技術分野を正しく明らかにしておらず、その結果、係争特許の請求項2でさらに定義された「密封部材」の技術的特徴を正しく明らかにすることができておらず、判決の理由不備という法令違反があるという点が上訴人の主張の趣旨である。」という上訴の理由は採用できない。
7.当所の分析
本判決からは、次の重要ポイントが読み取れる。
(1)係争特許の請求項1が補正された際、明細書には「前記複数のフィルター部材は、ろ過が気流の通過方向に垂直かつ前記2つの開口に平行に設置されることにより、気流は前記複数のフィルター部材を順に通過してろ過される」との開示はなかったものの、その構造内容は図面を見れば明らかであり、智慧財産局にもその補正が受け入れられた。
(2)通常、技術を応用する分野が異なるという抗弁を、当局や法院(裁判所)が受け入れることは容易ではなく、やはり問題の核心は、双方の技術的な解決策が共通性のある同じ機能や作用を有しているか否かである。
(3)主要な証拠と副次的な証拠の組み合わせの変更や内容の採用は、実質的な判断に影響を与えるものではなく、証拠の順序の変更は新証拠に該当しない。
(4)特許請求項で定義された要素が、係争特許の明細書では明確に定義されておらず、その詳細、構造、機能、目的などが開示されていない。先行技術の開示内容が、係争特許の要素を含んでいる場合、本質的には詳細が異なっていても、明細書に明確に開示されていない場合、審査官や裁判官を説得するのが難しいことがある。したがって、出願時には、重要な技術的特徴に関して完全に詳細が開示できているか否かに特に注意する必要があり、これは将来の有効な主張に役立つことである。