台湾の法院(裁判所)に認められた著名音商標「新一點靈 B12」
音商標「新一點靈 B12」が法院に著名音商標として認定されたが、台湾には他にどのような身近な音商標があるだろうか?音商標は認識度が高く、多くの人に口ずさまれるため、消費者が商標商品に強い印象を持ちやすい。音商標の専用権を取得するには、商標使用に関してどのような情報を提供すればよいだろうか?本事例を通じて音商標についての理解を深めていきたい。
法院(裁判所)に認定された著名音商標「新一點靈 B12」
事例の背景
2020年、原告は台湾の商標主務官庁である智慧財産局(以下、知財局という)に対し、商標「凱夢果酸一點靈」を第03類「香水、フェイシャルマスク、スキンケア製品、化粧品セット、メイク落とし、コラーゲン製剤、美容用ハーブ抽出エッセンス」等を指定商品として出願を行い、審査の結果、登録が認められた。
新一點靈企業股份有限公司(以下、新一點靈社という)は、上記商標登録により、新一點靈社の商標「新一點靈」(登録番号第748297号、第755125号、第755180号)、商標「新一點靈NEW-I-TEN-RIN及び図」(登録番号第1252411号)及び音商標「新一點靈B12」(登録番号第01150436号)の出所について消費者の混同誤認を招く影響があると考え、上記商標登録に対する異議を申し立てた。
CMソング「新一點靈」は、新一點靈社の長期的かつ集中的な広告キャンペーンを通じて、長年にわたりテレビCMやラジオ放送で歌の形で消費者に提示されており、よく知られたCMソングとして認識され、音商標として登録されている。さらに、商標「新一點靈」及び音商標「新一點靈B12」は、中台異字第G00960936号により、著名音商標に認定されている。「凱夢果酸一點靈」は、「新一點靈」と商標の構成も指定商品も類似していることから、知財局の審理の結果、台湾商標法第30条第1項第10号の規定により「凱夢果酸一點靈」の商標登録は取り消された。原告はこれを不服として訴願を提起したが棄却された。後に原告は智慧財産及商業法院(知的財産及び商事裁判所、以下、「法院」という)に上訴したが、法院は原告の訴えを棄却した。
本件では、商標「凱夢果酸一點靈」は、先に登録された「新一點靈」と商標の構成が類似し、指定商品の類似度も高かったため、登録が取り消されたが、法院は判決の中で、音商標「新一點靈B12」の著名性を認め、これは音商標を大いに肯定するものとなった。以下、音商標に関して簡単な分析を行う。
法院が「新一點靈」を著名音商標と認めた理由
中国語の「一點靈」という言葉には「少量で効き目がある」という意味があるが、商標の指定商品を直接的に説明するものではなく、また、当該業界において商品を紹介するための説明的な語句又は商品の名称として使用されているわけでもなく、相当な識別性を有する。
新一點靈社は1986年の創立以来、長年にわたりテレビやインターネットなどの媒体を通じて商標「新一點靈」を用いた広告宣伝をしており、大手薬局やドラッグストアで当該商標を付した商品を販売してきた。また、音商標「新一點靈B12」は知財局における商標争議により著名であると認定されている。これらのことから、商標「凱夢果酸一點靈」の出願前に、商標「新一點靈」はすでに広く認知されていたはずであり、相当なで著名性を有していたと考えられる。
音商標とは?
すなわち、歌のワンフレーズ、複数の音声又は単一の音声であり、例えば人間の声で発するフレーズやライオンの鳴き声のように、識別性を有するあらゆる音が音商標となり得る。
台湾にはどれくらい音商標があるか?
知財局のデータベースによると、現在は58件の音商標が登録されている。
どのように商標登録出願をすれば登録されるか?
音商標は、見たり触れたりすることができず、聴覚でしか認識できないため、商標の専用権を取得したい場合には、音の伝達媒体を通じて商標の宣伝・広告を行う必要があり、現在は音商標の存在を広く宣伝するために、テレビCM、ラジオ、youtube、X、Facebook、Instargram、TikTok等のような動画配信媒体が一般的である。商標権取得の可否は、広告の回数、広告の量、広告の視聴者数によって左右される。これらの数量が多いほど、音商標の存在を多くの人に知ってもらい、特定の商標に親近感を持ってもらうことができ、音商標が登録される可能性が高くなる。
音商標出願の利点
音は認識度が高く、人は音に敏感であるため、消費者の注意を引くことができ、音楽は広く伝わりやすく、広告の内容やキャッチフレーズや曲により商品の印象が消費者に残りやすくなり、消費者の商品やサービスに対する購買意欲をかき立てることから、商品やサービスのプロモーションに非常に有利となる。
総括
音商標の著名性を法院から認定されたことは、業界にとって大きな励みである。音商標は、従来の平面的な商標とは異なり、宣伝時の広告方式に制約があり、従来商標のように紙、カタログ、チラシ等の比較的コストが低い方式では、音商標の存在を消費者に認識させることはできない。したがって、音商標の存在を消費者に知らせるためには、広告映像、ラジオ放送などのコストがかかる方式により音商標を配信する必要がある。
上述の判決は、企業の音商標に対する宣伝努力を認め、類似商標の不当な登録を制止し、企業の投資を積極的かつ奨励的な効果のあるものにし、音商標を用いる企業がより自信を持ち、自己の権益保護強化を可能にする決定となった。
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参考:
智慧財産及商業法院112年(2023年)度行商訴字第49号判決
経済部智慧財産局