専利請求項における前提部の制限に関する事例紹介
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専利請求項における前提部の制限に関する事例紹介

 専利請求項における前提部の制限に関する事例紹介
(専利には一般的に特許、実用新案、意匠が含まれ、本件の係争専利は実用新案であるが、便宜上ここでは「専利」を用いる。)
 
一、判決番号:112年(2023年)度民専訴字第20号 (2024年1月23日)
 
二、争点:係争製品は係争専利の権利範囲に含まれるか?
 
三、主文:原告の訴え及び仮執行の申し立てを棄却する。
 
四、原告の主張:
原告は、係争専利の専利権者として、2022年7月1日、第三者である龍泰磁磚有限公司(以下、龍泰社という)に委託して、本件被告である國聯窯業股份有限公司が製造し、同じく本件被告である智陞建材有限公司が販売する200×270mmの金櫻階段石英タイル(以下、係争製品という)を鶯發建材行から購入した後、中正專利商標聯合事務所に専利権侵害判断のための比較分析を依頼した。その結果、係争製品の技術特徴は係争専利の専利請求の範囲に含まれると判断された。
 
五、被告の主張:
 係争製品の一体型階段タイル構造は、公知技術であり、2層構造である。係争製品は、建築物無障礙施設設計規範(建築物バリアフリー施設設計規範)第304.3条の要件を満たすため、インクジェット装置によるインクの吹き付け方式で凸層を染色したものであり、滑り止め層を追加する必要がない。係争専利を実施して製造された龍泰社のKEDA二色識別階段タイルと係争製品の滑り抵抗係数の鑑定を台灣檢驗科技股份有限公司に依頼したところ、係争製品の水平方向及び垂直方向の滑り抵抗係数は、台湾内政部(諸外国の内務省に相当)が定めた建築物地坪面磚防滑係數或等級指導原則(建築物床材滑り抵抗係数又は等級指導原則)及び龍社のKEDAタイルの滑り抵抗係数より低いという結果が出た。また、原告が提出した係争製品を200倍に拡大した写真によれば、三層構造は見られず、滑り止め層は設けられていないが、係争製品の滑り止め効果は、当該業界で良く見られる方法を用いて、鋳型でタイルの前部をプレスした部分に筋状の凸部又は凹部を複数設けることによって達成されるものであり、係争専利の凸層と識別層と滑り止め層からなる三層構造とは明らかに異なり、係争専利の滑り止め層に対応する構成要素又は特徴を有しないため、係争製品は係争専利を侵害していない。
 
六、法院(裁判所)の心証
(一)係争専利の技術分析:
1.係争専利の技術内容
係争専利の明細書【0004】、【0016】段落の記載によると、係争専利は、階段の踏み板に設けられる、識別性を有する階段タイル構造であって、本体と、少なくとも1つの凸層と、少なくとも1つの識別層を含み、本体は第1表面を備え、少なくとも1つの凸層は本体の第1表面上に設けられ、少なくとも1つの識別層は凸層の本体側ではない表面上に設けられる。係争専利の識別性を有する階段タイル構造は、主に、階段の各段の前縁部において階段の本体と一体成形する方式により凸状の凸層及び識別層を設けるハードウェア設計であり、従来の階段が抱える滑り止め部材設置の二次加工による製造時間及び製造コストの増加という問題を効果的に軽減し、また、従来の滑り止め部材が薄暗い空間では使用者に気付かれにくいという欠点を効果的に解決し、使用者は階段の段差の位置を明確に識別でき、施工時間と製造コストが削減されるという利点を確実に実現することができる。
 
2.係争専利の主な図面:
 
3.係争専利の権利範囲及び解釈:
請求項1:階段の踏み板に設けられる、識別性を有する階段タイル構造1であって、前記識別性を有する階段タイル構造1は、第1表面111を有する本体11と、前記本体11の前記第1表面111上に設けられる少なくとも1つの凸層12と、前記凸層12の本体11側ではない表面上に設けられる少なくとも1つの識別層13を含み、前記凸層12は前記本体11と一体成形され、前記凸層12は前記本体11に接するように設けられ、前記本体11は第1幅W1を有し、前記凸層は第2幅W2を有し、前記第1幅W1と前記第2幅W2の比の値は3:1から7:1の間であり、前記識別層13はプリント又は塗布の方式により前記凸層12上に形成され、さらに、前記識別層13の前記凸層12側ではない表面には滑り止め層14が形成される。
 
(二)係争製品の技術内容:
2023年12月26日の法定では原告によって切断された係争製品の検証が行われ、その検証結果及び検証写真によると、係争製品のタイル表面の同じ側には、濃い茶色で筋状の長方形凸状部が4本あり、そのうちの3本の幅は皆0.7cmであり、互いの間隔は0.3cmであり、残りの1本の幅は1.2cmであり、一番近い0.7cm幅の突状部との間隔は1cmであった。切断された側部の断面は、凸状部の上面部分が極細の濃い茶色で縁取られている以外は、タイル自体の色であった。
 
(三)係争専利請求項1の要件番号1A(前提部):
係争製品はタイル構造であり、係争専利請求項1の要件番号1A「識別性を有する階段タイル構造」の技術内容に対応しているが、係争製品のタイル構造はタイル単体である。原告は当審において、係争製品のタイルは箱単位で販売されており、その他の販売形態又及び方式では販売されていないなどと述べており、それは箱単位で販売されている係争製品の実物写真により裏付けられている。また、原告と被告の双方から提出された専利侵害鑑定報告書又は専利権不侵害の分析答弁書などの内容を参照すると、いずれも係争製品のタイル単体を鑑定、分析したものであり、階段の踏み板に設けられたタイルではない。つまり、係争専利請求項1の要件番号1で定義されている「階段の踏み板に設けられる」という技術特徴とは異なる。したがって、係争製品は係争専利請求項1の要件番号1Aの文言から読み取れるものではない。
 
(四)係争専利請求項1の要件番号1H:
係争製品は凸層上にざらざらした釉薬層を有し、この釉薬層はプリントにより前記凸層上に形成されているが、これは係争専利請求項1の要件番号1Hの「前記識別層はプリント又は塗布の方式により前記凸層上に形成され」という技術特徴に対応していると言える。しかし、2023年12月26日の法定における原告によって切断された係争製品の検証結果及び検証写真によると、係争製品の切断された側部の断面は、凸状部の上面部分が極細の茶色で縁取られている以外は、タイル自体の色であり、前出の係争専利の主な図面(4)を参照すると、係争専利の当該滑り止め層は識別層上で独立しているが、係争製品上の釉薬層の凸層側ではないざらざらした面にはいかなる被膜層も有していないため、係争専利で開示された「滑り止め層」の構造を欠いていることが分かる。
 つまり、係争製品は補正後の係争専利請求項1の要件番号1A及び1Hの文言から読み取れるものではなく、全要件原則に基づき、係争製品の技術特徴は補正後の専利請求項1の文言範囲には属さない。
 
(五)原告の主張に対する見解:
係争製品の釉薬は凸層の上面に位置し、一定の厚さを有し、製品の釉薬が焼結した後、釉薬表面以下の部分は釉薬の色を保持して識別層となり、その釉薬表面(又は釉薬表層)には、焼結後に複数の粗い粒が形成され、これにより釉薬層表面上にざらつきが生じるので、釉薬層表面に滑り止め層が形成されるため、係争専利に開示された「前記識別層の前記凸層側ではない表面には滑り止め層が形成される」という技術特徴に合致している、又はこの技術特徴と実質的に異なるところはないと言える、というのが原告の主張である。
 
しかし、係争専利の明細書には、「本考案の一実施形態において、識別層の凸層側ではない表面にはさらに滑り止め層を形成することができる。本考案の一実施形態において、滑り止め層の識別層側ではない表面は粗面である」という記載や、「さらに、本考案の識別性を有する階段タイル構造の5つ目の好ましい実施形態におけるすべり止め層を示す図である図7を参照されたい。前記識別層は前記凸層側ではない表面に滑り止め層が形成されており、前記滑り止め層の前記識別層側ではない表面は粗面であり、前記滑り止め層の粗面は滑り止め効果を有し、前記階段を昇降する使用者が滑って転ぶ事態を防止する」という記載などがあり、係争専利の滑り止めは識別層の凸層側ではない面に形成され、識別層と同一ではなく、両者の構造は異なることが分かり、前出の係争専利の主な図面(4)を参照すると、係争製品専利の凸層、識別層、滑り止め層は三層に分かれた構造であることが分かる。
 
係争製品のざらざらした釉薬層がインクジェットや焼結の方法で形成されたものであるという事実について、原告と被告は争っておらず、係争製品にあるざらざらした釉薬層は一度に形成された被膜層であることは証明されており、2023年12月26日の法定における切断された係争製品の検証結果及び検証写真によると、係争製品の凸層上のざらざらした釉薬層は凸状部の表層にあり、この釉薬層は濃い茶色の単色で、境界がないことから、この粗面は一度に形成された単一の被膜層であり、釉薬層下層が形成された後に、この釉薬層下層の前記凸層側ではない面にさらに釉薬層上層が形成されたものではないことが分かる。また、原告は、釉薬層の上下の二層構造であることと、焼結後の釉薬層表面に生じたざらつきが、係争専利の滑り止め層に該当するという点に関する証拠を提出してはおらず、上述の主張のみを根拠として当該釉薬層が係争専利の識別層及び滑り止め層に相当すると認めることはできない。
 
七、結論:
本件では、係争製品の構造と、係争専利で定義されている識別層及び滑り止め層の部分について、標準的な公知技術に近いと判断された。しかし、本件では、係争専利の請求項1の要件番号1Aの前提部は比較的特殊な部分であると判断された。過去の事例における多くの前提部では、技術的背景又は使用環境を定義する際に、周囲の構成要素についてわずかに言及されている。例えば、本件の係争専利請求項1の要件番号1Aでは「階段の踏み板に設けられる」と定義されており、踏み板は明らかに本件の技術特徴ではなく、特定の環境での使用を指しており、専利の権利範囲を限定するものではない。したがって、この事例から、今後、出願人や特許技術者は、前提部の定義について熟慮するか、裁判官が前提部の公知技術を制限条件にすべきであると考えた場合に備えて、主張できる他の独立項を確保するために、環境的要素をまったく含まない記載の追加が必要かもしれないということが分かる。
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