一、判決番号:智慧財産及商業法院111年(2022年)度行専訴字第58号 (民國 112年(2024年) 08 月 24 日)
二、係争実用新案: M568885 「水面グラウチングプラットフォーム吊り下げ装置」
三、争点:証拠9の工事現場は不特定の者に対する公開と見なされるか?
四、被告の主張:
(一)証拠9には日付の記載がないが、他の証拠を参照すると、証拠9および証拠17から証拠20の写真は、当該工事の異なる施工段階で撮影されたもので、その撮影日はすべて2014年8月末以前であり、これは係争実用新案の出願日よりも早い時期である。ただし、証拠9および証拠17から証拠20の内容からは、当該工事における施工技術が既に公開されていたかどうかは判別できない。
(二)原告は、証拠9および証拠17から証拠20に示された高雄港は開放水域であり、甲第3号証、甲第3号証‐1、甲第4号証などの関連証拠から、不特定の第三者が水上交通手段を利用して工事の進行状況を視認できたとして、公開実施の要件を満たしており、これらの証拠には証拠能力があると主張している。しかし、観光遊覧船、コンテナ船、バラ積み船などの船舶が航行するには、事前に航路を把握し、工事現場を避けて通行する必要がある。これは、船舶が施工区域に誤って侵入したり、作業員に危険を及ぼしたりすることを防ぐための、施工安全に関する基本的な常識である。甲第3号証、甲第3号証‐1、甲第4号証に示された船舶の航行は、高雄港の開放水域を通過したものであるが、せいぜい埠頭で工事が行われている様子が見える程度であり、船舶は工事現場からある程度の距離を保って航行しているため、普通の人の肉眼では岸辺の設備を識別するには限界があり、技術的な内容を把握できるほどの視認性はない。したがって、これらの証拠によって当該工事が不特定の者に公開され、技術内容が認識可能であったとは認められない。
(三)証拠9および証拠17から証拠20の写真については、前述したとおり、当該技術内容が不特定の者に公開され、かつ内容を認識可能な状態にあったことの証明にはならない。また、凡瑜工程有限公司とその従業員との間に秘密保持契約が締結されていたか否か、その契約書類が訴訟のために用意された形式的なものではないか、秘密保持契約を締結していない施工作業員が存在していたか否か、さらには台湾世曦工程顧問股份有限公司(以下「世曦公司」という。)に秘密保持義務があったか否かといった点についても、当該施工技術内容が実際に公開されていたか否かを判断する根拠とはなり得ない。加えて、110号・111号埠頭は広大な敷地を有し、かつ工種が多いことから、他の請負業者に属する現場作業員が写真に示された位置で同時に作業していたか、またその者たちが該当技術を把握していたか否かも不明である。さらに、甲第6号証の文章内容や写真も、係争実用新案の技術的特徴を開示するものではないため、原告が主張するように、証拠9および証拠17から証拠20に示された工事技術内容が公開実施されていたと直ちに認めることはできない。
五、法院(裁判所)の見解:
(一)甲第9号証は工事施工中の写真であり、各写真の遠方の背景には、甲第8号証に示されたVTC塔台が写っている。さらに、甲第16号証における証人、すなわち監督機関である世曦公司の現場担当者・楊盛傑が、本件に関連する民事事件の裁判(判決番号111年度民専上字第18号)において、「甲第9号証はすべて港内艇用船渠建設工事に関する写真である」と証言していることを踏まえれば、甲第9号証の写真はすべて同一系列の施工工程の写真であると認められる。また、甲第9号証の2枚目および3枚目の写真には工事表示板が写っているが、これは工事業界において一般的な慣行であり、工事名称、施工内容、当時の日付などを明示するために使用されるものである。この表示板には、監督機関および施工業者の担当者名が記載されており、これにより写真の真正性がさらに裏付けられる。甲第9号証の1枚目の写真に記載された日付「2017/5/15」と、2枚目、3枚目の写真の表示板に記載された日付「106.4.5」(2017年4月5日)から、甲第9号証の写真は2017年4月から5月の間に撮影されたと認められる。さらに、甲第16号証の証人・楊盛傑が「甲第9号証の写真は港内艇用船渠建設工事の現場である」と証言しており、これは前述の写真の表示板に記載された施工工事名「高雄港洲際貨櫃中心(コンテナセンター)第二期建設計画 海岸線・浚渫・港内艇用船渠の建設工事」の記載や、甲第7号証資料の3ページ目の工事区分二に示された工事内容「海岸線、浚渫、港内艇用船渠の建設工事」、工期「5年(2013年4月〜2018年5月)」、備考「落札業者:宏華営造股份有限公司」)等の記載といずれも一致している。したがって、甲第9号証の写真は真正な証拠であると認められ、かつ係争実用新案の出願日以前に存在していたと判断できる。
(二)甲第9号証の港内艇用船渠建設工事に関しては、台湾行政院農業委員会水土保持局が主催した「106年(2017年)度 優良公共工事の視察」に関する文書である甲第10号証および甲第11号証を参照すると、視察対象は「高雄港洲際貨櫃中心(コンテナセンター)第二期建設計画 海岸線・浚渫・港内艇用船渠の建設工事」であり、視察日は民国106年(2017年)3月9日であった。この視察においては、参加機関の担当者が実際に工事現場を視察しており、当該港内艇用船渠建設工事の現場には立ち入り制限用の囲いが設置されておらず、また参加者からの事前の届出や名簿の提出もなく、このように、性質の異なる2つの機関の視察者がいずれも工事現場を自由に視察でき、かつ事前の届出や登録が不要であったことから、視察参加者は不特の者に該当すると考えられる。さらに、視察場所が港内艇用船渠建設工事現場に限定されていたことと、その視察日時が甲第9号証の写真の撮影時期と近接しており、かつ水面プラットフォーム吊り下げ装置(すなわち本件の係争実用新案)が施行されていた期間に当たることから、当該工事現場は人員の立ち入りを制限しておらず、その施工技術(甲第9号証の写真の内容を含む)は不特定多数の人の目に触れる状態にあったと認められる。したがって、この技術内容は、係争実用新案の出願日前にすでに公開されていた情報に該当し、係争実用新案の先行技術に当たると判断される。
(三)甲第9号証および甲第14号証の真正性については、前述のとおりである。また、丙第7号証に示される原告と台湾港務股份有限公司高雄港務分公司(以下「高港公司」という。)との工事調達契約の37ページ、第18条第(十四)項には、「契約内容に秘密保持が必要な場合、業者は機関の書面による同意なしに、契約内容を履行に関係のない第三者に漏洩してはならない」とあり、第(十五)項には、「業者は契約履行期間中に知り得た機関の機密、またはいかなる非公開の文書、図面、情報、物品もしくはその他の情報についても、秘密を保持し、漏洩してはならない」と定められている。しかし、これらの秘密保持条項においても、甲第9号証および甲第14号証の内容が秘密である、または公開してはならない情報であると特定することはできない。仮に、甲第9号証および甲第14号証が内部資料であったとしても、甲第16号証における証人・楊盛傑の証言により、港内艇用船渠建設工事の現場には立ち入りを制限する囲いは設置されていなかったことが確認されている。さらに、甲第14号証に示された施工現場の写真には、釣り人の姿も写っており、これにより、甲第9号証および甲第14号証の撮影場所である港内艇用船渠建設工事の施工現場は、不特定の者が接近・目視可能な状態にあったことが裏付けられる。したがって、係争実用新案の技術の使用は、すでに不特定多数の人が共に目にし、知ることができる状態にあったと判断される。
六、結論:
本判決において検討されたのは、従来型の文献による証拠ではなく、写真によって公開された技術的特徴である。写真は公開日を立証することが難しく、さらに写真に示された場所が公開の場であったか否かという問題があるため、以下のような論点が生じる。
論点1:
工事現場は接近が困難であり、また一般人も近づくことを避け、肉眼で識別することができない場合、果たしてその工事現場が不特定の者に対して公開されており、かつ当該技術内容を知ることができる状態にあったと認められるのか?
この点に対して、判決では明確な回答が示されていないものの、他の証拠から判断すると、証拠9に示された技術内容が撮影された当時、現場には人員の出入りを制限するような管理体制は取られていなかったことが分かる。したがって、その現場が非公開の場であったと主張するのであれば、少なくとも人員の出入りを制限・管理している必要があるという点が示唆される。
論点2:
実用新案権者は、港内艇用船渠建設工事において高港公司と請負業者(原告)との間に秘密保持条項が取り決められていたと主張しているが、甲第9号証は内部資料であり、証拠能力を有していないのではないか?
この点に対する法院(裁判所)の見解は、秘密保持契約の内容においても、証拠9に示された技術内容が保持すべき秘密であるとは明確に特定されておらず、最も重要なのは、当該現場が人員の出入りを制限するような管理が行われていなかったというものである。
総括すると、出願人が施工技術を実施する期間中に、不特定の者がその技術的特徴に接触する可能性がある場合、その結果として特許・実用新案出願の新規性が失われるリスクがあり、最も安全な対策としては、現場に囲いを設置することと、人員の出入り管理をすること、さらに、当該技術に接触する可能性のあるすべての関係者と秘密保持契約を締結しておくことが挙げられる。また、技術的特徴が他人により外部から撮影されることを極力避けることも重要である。これらの対策を怠ると、特許・実用新案出願の新規性や進歩性を失うリスクがある。