先行技術に開示されていない特定数値の進歩性判断
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先行技術に開示されていない特定数値の進歩性判断

先行技術に開示されていない特定数値の進歩性判断
一、判決番号:110年(2021年)度民専上字第25号
 
二、係争特許:I556033「携帯型電子機器、そのスクリーンコントロールモジュール、およびそのタッチパネルコントローラー」
 
三、争点:先行技術に開示されていない特定の数値に進歩性があるか?
 
四、事例の概要
原告の主張:原告は台湾第I556033号発明特許(以下「係争特許」という。)の特許権者である。被告である紹宏科技股份有限公司および中国企業・深圳市滙頂科技股份有限公司が製造・販売する「Goodix Technology」の静電容量式タッチコントロールチップおよびそれを搭載したタッチパネルコントロールモジュール製品は、係争特許の請求項10、11および12の範囲に属しており、原告は被告らに対し連帯して損害賠償責任を負うよう請求した。
被告の答弁:係争特許の明細書には、請求項10に示された数値の限定を決定した理由が記載されておらず、また請求項11に示された関連臨界範囲が持つ臨界的意義も記載されていない。被告が提出した証拠の組み合わせにより、争点に示したとおり、請求項10から12には進歩性がないことが証明できる。したがって、請求項10から12には特許の取消理由が存在する。
 
五、特許請求の範囲:
本発明のスクリーンコントロールモジュールのタッチパネルコントローラーは、パッケージ体を備える集積回路によって構成され、前記タッチパネルコントローラーのパッケージ体の長さと幅の比率は、2、2.33または2.6のいずれかであり、前記パッケージ体の長さは20mm以下、幅は6mm以下であり、前記パッケージ体には、長さ方向および幅方向に沿ってそれぞれ配列された電気接点が設けられ、前記長さ方向に沿って設けられた電気接点の数は、前記幅方向に沿って設けられた電気接点の数よりも多いことを特徴とする。
 
六、先行技術:
被告側の証拠3における29ページの図面に開示されたチップのパッケージ体は、異なるサイズに応じて設計されており、長さは13.5mmまたは16.0mm、幅は5.5mmとすることができる。このことから、長さと幅の比率(アスペクト比)は、2.45(13.5 ÷ 5.5)または 2.91(16.0 ÷ 5.5)となる(巻2の138ページ、140ページ)。
 
七、法院(裁判所)の見解:
被告側の証拠3に記載されたアスペクト比は2.45または2.91であり、これは係争特許の2、2.33、2.6のいずれかと一致しないものの、その範囲内に含まれており、かつ、係争特許の携帯電子機器のスクリーンのベゼルにおける細長いスクリーンコントロールモジュールにより、スクリーンのベゼルを縮小するというニーズに合わせた技術的効果を同様に達成可能である。したがって、係争特許の請求項10の技術的特徴に対応していると言える。
また、係争特許の明細書【0020】段落では、パッケージ体のアスペクト比が2〜4の範囲内であれば、係争特許の意図する効果を達成可能であると記載されており、この範囲内でいかなる縮小があっても、スクリーンのベゼルを縮小するという効果の実現に支障はないとされている。よって、被告側の証拠3におけるパッケージ体のアスペクト比が2.45または2.91であり、被告側の証拠4のパッケージ体のアスペクト比が2.45であり、いずれも2〜4の範囲に含まれることから、係争特許が意図する効果を達成できるはずであり、当該技術分野において通常の知識を有する者であれば、係争特許の請求項10に記載された「長さと幅の比率は、2、2.33または2.6のいずれかである」という技術的特徴は容易になし得ると判断される。
 
八、小括
特許審査基準における「予測できない効果」に関する段落では、次のような数値に関する事例が挙げられている。
たとえば、特許出願された発明と、単一の引用文献に記載された技術内容が、いずれも酸化防止剤Aを含む塗料であり、その違いは、特許出願された発明が酸化防止剤Aの含有量を2〜3%に限定している点のみであるとする。しかし、酸化防止剤Aを塗料に使用することは既に周知の知識であり、その添加量に特別な制限が存在しない場合、特許出願された発明における「2〜3%」という範囲は、当該技術分野において通常の知識を有する者が、酸化の問題を解決するために出願時の一般的な知識に基づいて選択する最適またはより良い添加量であると考えられ、予測できない技術的効果は生じていないことから、進歩性は認められない。
 本事例および審査基準から明らかなように、請求項で限定された数値が、先行技術によって直接開示されていないとしても、
その数値が予測できない効果を生むことができなければ、進歩性を有しないと判断され得る。言い換えれば、たとえ特許権者が非常に精密な数値範囲を設定していたとしても、それが先行技術に対する単なる数値配分の違いにすぎず、かつその数値に特別な意味、すなわち予測できない効果が証明されない場合には、進歩性がないと判断される確率は依然として高くなる。
 
(出典:台湾経済部智慧財産局)
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