台湾商標法30条1項11号:
次の各号のいずれかに該当する商標は、登録を受けることができない。
十一 他人の著名な商標又は標章と同一又は類似であって、当該商標の使用により、関連する公衆に混同又は誤認を生じさせるおそれがあるもの、又は当該著名な商標若しくは標章の識別力若しくは信用を減殺するおそれがあるもの。ただし、当該商標又は標章の権利者の同意を得て出願された場合は、この限りでない。
1 事案の概要
本件は、原告が登録した商標「萬家香」について、台湾商標法第30条第1項第11号に定める登録拒絶事由に該当するか否か、すなわち当該商標の登録を取り消すことが相当であるか否かが争われた行政訴訟事件である。
原告は、2016年4月14日、「萬家香」を標章とし、第4類および第11類の商品を指定して商標登録出願を行った。その後、原告は指定商品の一部を削除した上で、当該商標は登録第01820505号として登録された。
これに対し、参加人は、「萬家香」を標章とする複数の登録商標を保有し、長年にわたり醤油を中心とする調味料商品に当該商標を使用してきた事業者である。参加人は、本件商標が自己の著名商標と同一又は類似であり、関連商品に使用されることにより、取引者又は一般消費者に混同を生じさせるおそれがあるほか、著名商標の識別力又は信用が損なわれるおそれがあるとして、登録取消しを求めた。被告(台湾智慧財産局)は、2024年8月28日、本件商標の登録を取り消す旨の処分を行った。原告は、この処分を不服として不服申立てを行ったが、主管機関はこれを棄却した。そのため、原告は、本件行政訴訟を提起するに至った。
2 引用商標の著名性
まず、裁判所は、参加人が使用する引用商標の著名性およびその程度について検討した。
参加人は、 1945年に事業を開始し、「萬家香」を商標として、醤油を中心とする調味料商品に継続的に使用してきた。参加人は、台湾において多数の商標登録を有するのみならず、中国大陸、アメリカ合衆国、マレーシア等の国や地域においても商標権を取得している。
また、引用商標が付された商品は、食品専門誌による評価を受けているほか、品質管理に関する国際的な認証を取得している。さらに、新聞広告やテレビ広告、著名人を起用した宣伝活動、企業の沿革に関する報道などを通じて、長期間にわたり全国規模で広告宣伝が行われてきた。
これらの事情を総合すると、引用商標は、本件商標の出願時点において、関連する取引者および一般消費者の間で広く認識されていた商標であり、著名性の程度は高いと裁判所は認定した。
3 商標の類似性および識別力
次に、裁判所は、本件商標と引用商標との類似性について検討した。
本件商標および引用商標はいずれも、中文文字「萬家香」を主要な構成要素としている。本件商標には、当該文字部分とは別に、出所を明確に区別し得る顕著な要素は認められない。
そのため、通常の注意力を有する取引者又は一般消費者が商品を購入する際、両商標を同一の事業者、又は経済的若しくは組織的に関連する事業者の商品であると誤認する可能性が高い。裁判所は、両商標の類似性の程度は極めて高いと判断した。
また、「萬家香」という標章は、調味料商品の品質、原材料又は用途を直接示すものではない。このため、引用商標は本来的に一定の識別力を有している。加えて、参加人による長期間かつ広範な使用により、引用商標は強い出所表示機能を獲得していると認められる。
4 関連する取引者および消費者の認識
裁判所は、関連する取引者および一般消費者が各商標をどの程度認識しているかについても検討した。
引用商標は、日常的に使用される調味料商品に付されてきた結果、一般消費者にとって極めて認知度の高い商標となっている。一方、本件商標については、原告が提出した資料から、登録時点において同程度の市場認知が形成されていたとは認められなかった。
このため、関連する取引者および消費者における商標の認識の程度は、引用商標が本件商標を大きく上回っていると裁判所は判断した。
5 商品間の関連性および混同のおそれ
本件商標が指定する第11類の商品には、焼肉用の器具、加熱用機器、照明用機器が含まれている。これらの商品は、引用商標が使用される醤油等の調味料商品と、焼肉という消費場面において併用される関係にある。
このような取引の実情を踏まえると、取引者又は一般消費者が、両商標の付された商品を同一又は関連する事業者の商品であると誤認するおそれがあると裁判所は認定した。
また、第4類の商品および一部の第11類商品についても、引用商標の高い著名性を考慮すると、当該商標の識別力が弱められるおそれがあると判断された。
6 出願人の主観的意図
さらに、裁判所は、本件商標の出願における原告の主観的意図について検討した。
台湾商標法第58条第2項にいう悪意の有無は、出願人が著名商標の存在を認識していたか否か、及び当該著名商標との混同を利用する意図を有していたか否かを基準として判断される。
引用商標は高い著名性を有していることから、原告がその存在を認識していなかったとは考え難い。また、本件商標の指定商品は、販売場面および使用場面において、引用商標の商品と一定の関連性を有している。
これらの事情を総合すると、原告は、引用商標の信用や顧客吸引力に着目し、これを利用して競争上の利益を得ようとする意図を有していたと裁判所は判断した。
7 裁判所の判断
以上の事情を総合的に考慮すると、本件商標の登録は、台湾商標法第30条第1項第11号に該当する。そのため、本件登録を取り消した被告の処分は適法であり、原告の請求には理由がないとして、裁判所は原告の請求を棄却した。
8 まとめ
本件「萬家香」事件は、著名商標の該当性がどのような事実関係に基づいて判断されるのかを具体的に示した点で、示唆に富む判例である。裁判所は、商標の文字構成や類似性といった形式的要素にとどまらず、長年にわたる使用実績、広告宣伝の内容と範囲、受賞歴、消費者の認知状況などを総合的に考慮し、引用商標が高い著名性を有すると認定した。また、指定商品が異なる場合であっても、使用場面や取引の実情において密接な関連性が認められるときは、混同のおそれや識別力の希釈が生じ得ることを明確にしている。さらに、出願人が著名商標の存在を認識しつつ、その信用や顧客吸引力に着目して出願したと評価される場合には、悪意が肯定され得る点も重要である。本判決は、著名性立証の在り方とともに、周知・著名商標保護の実務上の判断枠組みを理解する上で、有用な指針を提供している。
出典:知的財産および商業裁判所2025年度行商訴字第9号判決(智慧財產及商業法院114年度行商訴字第 9 號判決) https://www.tipo.gov.tw/tw/trademarks/631-66181.html