台湾商標法第95条における主観的犯意の判断-百世国際車業事件から読み解く無罪判決の実務ポイント
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台湾商標法第95条における主観的犯意の判断-百世国際車業事件から読み解く無罪判決の実務ポイント

台湾商標法第95条における主観的犯意の判断-百世国際車業事件から読み解く無罪判決の実務ポイント
台湾における商標権侵害の刑事事件では、「主観的犯意」の有無が、無罪と有罪を分ける最も重要な判断要素となっている。商標を無断で使用したという客観的事実が存在しても、被告が商標権侵害を認識していたか否かが立証されなければ、刑事責任は成立しない。
 
本稿では、台湾台北地方裁判所113年度智易字第52号刑事判決を素材として、商標法第95条第1項における主観的犯意の判断構造と、実務上の留意点を整理する。
 
商標法第95条
商標権者または団体商標権者の同意を得ないで、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、
三年以下の懲役、拘留、または二十万ニュー台湾ドル以下の罰金に処し、またはこれらを併科する。
一 同一の商品又は役務について、登録商標又は団体商標と同一の商標を使用したとき。
二 類似の商品又は役務について、登録商標又は団体商標と同一の商標を使用し、関連する消費者に混同又は誤認を生じさせるおそれがあるとき。
三 同一又は類似の商品又は役務について、登録商標又は団体商標と類似する商標を使用し、関連する消費者に混同又は誤認を生じさせるおそれがあるとき。
 
1 事件の背景と争点の位置付け
本件は、「百世国際車業 BESTCAR 及び図形」と称する標章の使用行為が、商標法第95条第1項に規定する商標権侵害罪に該当するか否かが争われた刑事事件である。本件における最大の争点は、被告が当該使用行為について商標権侵害を認識していたか否か、すなわち主観的犯意の有無であった。
 
対象商標は、第35類および第37類の自動車関連サービスを指定役務として登録されていた。検察官は、被告が登録商標と同一または類似する標章を、営業目的で継続使用した点を問題視し、商標法第95条違反として起訴した。
 
2 使用開始時期と商標登録時期の時間関係
本件において、裁判所が最初に重視したのは、「いつから標章が使用されていたか」という時間関係である。
 
被告は、告訴人と共同経営していた期間中から、当該標章を用いてオンライン販売を行っていた。一方、告訴人が商標登録を受けたのは、その後の時点であった。この時間的順序により、裁判所は、被告が当初から商標権侵害を認識していたとは評価し難いと判断した。
 
実務上、使用開始が登録以前である場合、主観的犯意の立証は極めて困難となる。
 
3 商標法第95条と主観的犯意の法的意義
商標法第95条第1項は、商標権者の同意を得ず、営業目的で登録商標と同一の商標を使用した者に刑事責任を課す規定である。
 
しかし、同条の適用においては、単なる使用事実のみでは足りず、
商標権の存在
権利範囲
侵害性
を被告が認識していたこと、すなわち主観的犯意の存在が必要とされる。
 
4 使用中止通知の有無と立証責任
告訴人は、共同経営終了後、被告に対して使用中止を繰り返し求めたと主張した。しかし、裁判所は、その主張を裏付ける客観的証拠が提出されていない点を重く評価した。
 
5 証人証言と客観資料の優先関係
本件では、複数の証人が、被告に対する通知の存在を証言した。
しかし、裁判所は、証言内容と労働保険記録との不一致を詳細に検討し、証言の信用性を否定した。
 
6 消費者誤認可能性の検討
裁判所は、消費者が告訴人の会社と被告の販売行為とを誤認した可能性についても検討を加えた。
 
オンライン販売ページに記載された連絡先が被告または第三者の電話番号であったことから、消費者が告訴人の会社に誤って苦情を申し立てる状況は、通常想定し難いと判断された。この点も、被告に主観的犯意が存在しなかったことを補強する事情とされた。
 
7 無罪判決に至る判断構造
以上の事情を総合的に考慮した結果、裁判所は、
使用開始時期
登録時期との関係
使用中止通知の不存在
証言の信用性欠如
誤認可能性の低さ
を理由として、検察官が提出した証拠のみでは、合理的疑いを超えて主観的犯意を立証できないと結論付けた。
その結果、裁判所は、商標法第95条第1項に基づく犯罪の成立を否定し、被告に対し無罪判決を言い渡した。
 
8 実務担当者への示唆
本判決は、台湾における商標刑事事件において、次の点が極めて重要であることを示している。
商標登録時期と使用開始時期の整理
使用中止通知の書面化
証拠保存体制の構築
主観的犯意の立証戦略
企業および法務担当者にとって、本判決は、商標紛争対応における重要な実務指針となるであろう。
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