一、裁判番号
112年度民専訴字第20号判決
中華民国113年1月23日
二、争点
本件の主な争点は、係争製品が係争特許の特許請求の範囲に属するか否かである。
三、主文
裁判所は、原告の請求および仮執行の申立てをいずれも棄却した。
四、原告の主張
原告は、係争特許の特許権者である。
中華民国111年7月1日、原告は、第三者である龍泰磁磚有限公司に委託し、鶯発建材行から係争製品を購入した。係争製品は、被告である国聯公司が製造し、被告である智陞公司が代理販売した200×270mmの「金櫻階段用石英タイル」である。
原告は、係争製品を取得した後、係争製品を中正専利商標聯合事務所に送付し、特許権侵害に関する分析および対比を依頼した。原告は、係争製品が係争特許の特許請求の範囲に属すると主張した。
五、被告の抗弁
被告は、係争製品に係る一体成形の階段用タイル構造は公知技術に属すると主張した。被告によれば、係争製品は二層構造である。
係争製品は、「建築物バリアフリー施設設計規範」第304.3条の要求に適合させる必要があった。そのため、被告はインクジェット機によりインクを噴霧する方法で、係争製品の突出層に着色したにすぎない。被告は、係争製品上に別途滑り止め層を形成していない。
係争製品が係争特許と異なることを証明するため、被告は、龍泰磁磚有限公司が係争特許を実施したKEDA二色識別階段用タイル製品と係争製品を、台湾検験科技股份有限公司に併せて送付し、防滑係数の鑑定を依頼した。鑑定結果によれば、係争製品の水平方向および垂直方向の防滑係数は、いずれも内政部が公表した「建築物床面タイル防滑係数または等級指導原則」の基準を下回り、龍泰KEDAタイルの鑑定結果も下回っていた。
また、原告が提出した係争製品の200倍拡大写真によっても、係争製品には三層構造が認められない。被告は、この点を根拠として、係争製品には滑り止め層が施工されていないと主張した。
被告はさらに、係争製品の滑り止め効果は、業界で一般的に用いられる方法により達成されていると主張した。具体的には、金型によりタイル前端部に複数の凸条または凹条を圧製することで滑り止め効果を得ている。係争製品は、係争特許が定める「突出層、識別層、滑り止め層」という三層構造とは明らかに異なる。係争製品には、係争特許の滑り止め層に対応するいかなる構成要素または技術的特徴も存在しない。したがって、被告は、係争製品が係争特許を侵害していないと主張した。
六、裁判所の心証
(一)係争特許の技術分析
1. 係争特許の技術内容
係争特許明細書の段落【0004】および【0016】の記載によれば、係争特許は、識別機能を有する階段用タイル構造を提案するものである。当該階段用タイル構造は、階段の踏面上に設置され、少なくとも一つの本体、少なくとも一つの突出層、および少なくとも一つの識別層を備える。
本体は、第一表面を有する。少なくとも一つの突出層は、本体の第一表面上に設けられる。少なくとも一つの識別層は、本体に対応して、突出層の他端面に設けられる。
係争特許の識別機能を有する階段用タイル構造は、主として、各段の階段前縁において、階段本体と一体成形される態様により、突出形状の突出層および識別層を設けるものである。このようなハードウェア設計により、係争特許は、従来の階段に設けられる滑り止め条が二次加工を必要とすることにより、製造時間および製造コストが増加するという問題を低減できる。
さらに、係争特許は、従来の滑り止め条が暗い空間において使用者に認識されにくいという欠点も改善できる。したがって、係争特許は、使用者に階段の段位置を明確に識別させる効果を提供し、施工時間および製造コストを低減することができる。
2. 係争特許の特許請求の範囲および解釈
請求項1には、次のとおり記載されている。
識別機能を有する階段用タイル構造1であって、一つの階段の一つの段上に設置される。
当該識別機能を有する階段用タイル構造1は、少なくとも以下を備える。
一つの本体11であって、第一表面111を有するもの。
少なくとも一つの突出層12であって、当該本体11の当該第一表面111上に設けられるもの。
少なくとも一つの識別層13であって、当該本体11に対応して、当該突出層12の他端面に設けられるもの。
当該突出層12は、当該本体11と一体成形されている。
当該突出層12は、当該本体11の一端部に近接して設けられている。
当該本体は第一幅W1を有し、当該突出層は第二幅W2を有し、当該第一幅W1と当該第二幅W2との比率は3対1から7対1の範囲内である。
当該識別層13は、印刷または塗布のいずれか一つの方法により当該突出層12上に形成され、当該識別層13の当該突出層12に対する他端面には、さらに一つの滑り止め層14が形成されている。
(二)係争製品の技術内容
裁判所が中華民国112年12月26日に法廷で行った、原告により切断された係争製品の検証結果および検証写真によれば、係争製品のタイル表面の同一側には、四本の濃褐色の長方形状凸条が存在する。
このうち三本の凸条の幅はいずれも0.7センチメートルであり、三本の凸条の相互間隔は0.3センチメートルである。もう一本の凸条の幅は1.2センチメートルであり、当該凸条と最も近い幅0.7センチメートルの凸条との間隔は1センチメートルである。
切断後の側面断面の観察結果によれば、凸条頂面と接続する部分には極めて細い濃褐色の縁が認められるものの、それ以外の部分はすべてタイル本体の色を呈している。
(三)係争特許請求項1の構成要件1A、すなわち前文について
請求項1の構成要件1Aについて、係争製品は一種のタイル構造である。したがって、係争製品は、「識別機能を有する階段用タイル構造」という技術内容には対応し得る。
しかし、係争製品自体は単体のタイルである。原告も裁判所の審理において、係争製品は販売時にいずれも箱単位で包装して販売されており、その他の販売態様または販売方法は存在しないと陳述している。記録上も、係争製品が箱詰めで販売されている実物写真を参照することができる。
さらに、両当事者が提出した特許侵害鑑定報告および非侵害分析答弁は、いずれも係争製品を単体のタイルとして鑑定または分析したものである。これらの鑑定および分析において、係争製品は階段の一つの段上に設置されていない。
したがって、係争製品は、係争特許請求項1の構成要件1Aが定める「一つの階段の一つの段上に設置される」という技術的特徴と同一ではない。裁判所は、この点に基づき、係争製品は係争特許請求項1の構成要件1Aによって文言上読み取ることができないと認定した。
(四)係争特許請求項1の構成要件1Hについて
請求項1の構成要件1Hについて、係争製品の突出層上には粗い釉薬層が存在し、当該釉薬層は印刷方式により突出層上に形成されている。したがって、当該構造は、「当該識別層は印刷または塗布のいずれか一つの方法により当該突出層上に形成される」という技術的特徴に対応し得る。
しかし、裁判所が中華民国112年12月26日に法廷で行った、原告により切断された係争製品の検証結果および検証写真によれば、係争製品の切断後の側面断面には、凸条頂面と接続する部分に極めて細い濃褐色の縁が認められるにとどまり、それ以外の部分はすべてタイル本体の色であった。
さらに、係争特許の主要図面を参照すると、係争特許の滑り止め層は、識別層上に独立して形成されている。したがって、裁判所は、係争製品上の粗い釉薬層について、突出層に対する他端面にはいかなる膜層も存在しないと判断した。言い換えれば、係争製品には、係争特許が開示する「滑り止め層」の構造が欠けている。
以上により、係争製品は、更正後の係争特許請求項1の構成要件1Aおよび1Hによって文言上読み取ることができない。全構成要件充足の原則に基づき、裁判所は、係争製品が更正後の係争特許請求項1の文言上の範囲に属しないと認定した。
(五)滑り止め層に関する原告の主張について
原告はさらに、係争製品の釉薬は突出層の上向きの一端面に位置し、一定の厚みを有すると主張した。また、原告は、係争製品の釉薬が焼結された後も、釉薬表面より下の部分にはなお釉薬の色が残るため、当該部分は識別層として機能し得ると主張した。
原告はさらに、釉薬表面または釉薬表層には、焼結後に複数の粗大な粒子が形成され、釉薬表面の上端面に粗さが生じると主張した。そのため、原告は、釉薬表面に滑り止め層が形成されており、係争特許が開示する「当該識別層の当該突出層に対する他端面には、さらに一つの滑り止め層が形成されている」という技術的特徴を充足すると主張した。原告は、仮に係争製品が完全に同一ではないとしても、係争製品と当該技術的特徴との間に実質的な差異はないとも主張した。
裁判所は、原告の上記主張を採用しなかった。
係争特許明細書には、「本考案の一実施例において、識別層の突出層に対する他端面には、さらに滑り止め層を形成することができる。本考案の一実施例において、滑り止め層の識別層に対する他端面は粗面である。」と記載されている。また、明細書には、「第7図も併せて参照されたい。同図は、本考案の識別機能を有する階段用タイル構造の第五の好適な実施例における滑り止め層の設置を示す概略図である。当該識別層の当該突出層に対する他端面には滑り止め層が形成され、当該滑り止め層の当該識別層に対する他端面は粗面であり、当該滑り止め層の粗面は滑り止め効果を有し、階段を昇降する使用者の転倒事故を防止する。」とも記載されている。
上記明細書の内容によれば、裁判所は、係争特許の滑り止め層は、識別層の突出層に対する他端面にさらに形成されるものであると判断した。滑り止め層と識別層は同一の構造ではなく、両者の構造も異なる。さらに、係争特許の主要図面を参照すると、係争特許の突出層、識別層および滑り止め層は、三層に区別可能な構造であると解される。
一方で、係争製品上の粗い釉薬層が、被告による印刷噴霧および焼結によって形成された事実については、両当事者間に争いがない。この事実は、係争製品上の粗い釉薬層が一度に形成された単一の膜層であることを示している。
また、裁判所が中華民国112年12月26日に法廷で行った、原告により切断された係争製品の検証結果および検証写真によれば、係争製品の突出層上の粗い釉薬層は、凸部の表層に存在している。当該釉薬層は単一の色、すなわち濃褐色を呈しており、いかなる界面も認められない。したがって、裁判所は、当該粗い釉薬層は一度に形成された単一の膜層であり、まず釉薬下層を形成した後、当該釉薬下層の突出層に対する他端面に、さらに釉薬上層を形成したものではないと判断した。
さらに、原告は、当該釉薬層を上下二層に区分できることを証明する証拠を提出していない。原告は、釉薬層表面の焼結により生じた粗さが、係争特許にいう滑り止め層に該当することを証明する証拠も提出していない。したがって、裁判所は、原告の主張のみに基づいて、当該釉薬層が係争特許の識別層および滑り止め層の双方に対応すると認定することはできないと判断した。
記録上の証拠によれば、係争製品は、突出層上に印刷方式により形成された一層の粗い釉薬層を有するにすぎない。係争製品は、係争特許が要求する「突出層、識別層、滑り止め層」という三層構造とは相当しない。したがって、裁判所は、原告の上記主張を採用できないと判断した。
七、小括
本件における、係争製品が「識別層」および「滑り止め層」を有するか否かの判断は、全体として、一般的な特許権侵害の対比基準に近いものといえる。裁判所は主として、請求項の文言、明細書の内容、図面の開示、および製品実物の検証結果に基づき、係争製品が請求項において要求される各技術的特徴を備えているか否かを判断した。
もっとも、本件において特に参考となる点は、係争特許請求項1の構成要件1Aの前文部分に関する裁判所の判断である。
一般的な事案では、請求項の前文は、技術的背景または使用環境を特定するために用いられることがある。前文に記載された周辺構成要素が発明の中核的な技術的特徴ではない場合、裁判所または鑑定機関が、当該前文の文言を直ちに特許請求の範囲の限定事項として扱うとは限らない。
しかし、本件では、係争特許請求項1の構成要件1Aに「一つの階段の一つの段上に設置される」と記載されていた。技術内容から見ると、段そのものは、本件の階段用タイル構造の主要な技術的特徴ではなく、むしろ使用環境の記載に近い。それにもかかわらず、裁判所は、「一つの階段の一つの段上に設置される」という記載を文言上の読取りの判断に含めた。そして、単体のタイルとして販売および鑑定された係争製品は、当該前文により特定された技術的特徴を満たさないと判断した。
したがって、本件は、出願人および特許技術者に対し、請求項の前文を作成する際には、前文の文言が限定事項として解釈される可能性を慎重に評価すべきであることを示している。発明の中核が製品自体の構造にあり、特定の使用環境にない場合、出願人は、環境要素を含まない別の独立請求項を作成することも検討できる。
上記のような請求項作成方法により、仮に裁判所が個別事案において、前文に記載された公知の環境または使用状態を限定事項として扱う場合であっても、特許権者は、他の独立請求項を権利主張の基礎として残すことができる可能性がある。一、裁判番号
112年度民専訴字第20号判決
中華民国113年1月23日
二、争点
本件の主な争点は、係争製品が係争特許の特許請求の範囲に属するか否かである。
三、主文
裁判所は、原告の請求および仮執行の申立てをいずれも棄却した。
四、原告の主張
原告は、係争特許の特許権者である。
中華民国111年7月1日、原告は、第三者である龍泰磁磚有限公司に委託し、鶯発建材行から係争製品を購入した。係争製品は、被告である国聯公司が製造し、被告である智陞公司が代理販売した200×270mmの「金櫻階段用石英タイル」である。
原告は、係争製品を取得した後、係争製品を中正専利商標聯合事務所に送付し、特許権侵害に関する分析および対比を依頼した。原告は、係争製品が係争特許の特許請求の範囲に属すると主張した。
五、被告の抗弁
被告は、係争製品に係る一体成形の階段用タイル構造は公知技術に属すると主張した。被告によれば、係争製品は二層構造である。
係争製品は、「建築物バリアフリー施設設計規範」第304.3条の要求に適合させる必要があった。そのため、被告はインクジェット機によりインクを噴霧する方法で、係争製品の突出層に着色したにすぎない。被告は、係争製品上に別途滑り止め層を形成していない。
係争製品が係争特許と異なることを証明するため、被告は、龍泰磁磚有限公司が係争特許を実施したKEDA二色識別階段用タイル製品と係争製品を、台湾検験科技股份有限公司に併せて送付し、防滑係数の鑑定を依頼した。鑑定結果によれば、係争製品の水平方向および垂直方向の防滑係数は、いずれも内政部が公表した「建築物床面タイル防滑係数または等級指導原則」の基準を下回り、龍泰KEDAタイルの鑑定結果も下回っていた。
また、原告が提出した係争製品の200倍拡大写真によっても、係争製品には三層構造が認められない。被告は、この点を根拠として、係争製品には滑り止め層が施工されていないと主張した。
被告はさらに、係争製品の滑り止め効果は、業界で一般的に用いられる方法により達成されていると主張した。具体的には、金型によりタイル前端部に複数の凸条または凹条を圧製することで滑り止め効果を得ている。係争製品は、係争特許が定める「突出層、識別層、滑り止め層」という三層構造とは明らかに異なる。係争製品には、係争特許の滑り止め層に対応するいかなる構成要素または技術的特徴も存在しない。したがって、被告は、係争製品が係争特許を侵害していないと主張した。
六、裁判所の心証
(一)係争特許の技術分析
1. 係争特許の技術内容
係争特許明細書の段落【0004】および【0016】の記載によれば、係争特許は、識別機能を有する階段用タイル構造を提案するものである。当該階段用タイル構造は、階段の踏面上に設置され、少なくとも一つの本体、少なくとも一つの突出層、および少なくとも一つの識別層を備える。
本体は、第一表面を有する。少なくとも一つの突出層は、本体の第一表面上に設けられる。少なくとも一つの識別層は、本体に対応して、突出層の他端面に設けられる。
係争特許の識別機能を有する階段用タイル構造は、主として、各段の階段前縁において、階段本体と一体成形される態様により、突出形状の突出層および識別層を設けるものである。このようなハードウェア設計により、係争特許は、従来の階段に設けられる滑り止め条が二次加工を必要とすることにより、製造時間および製造コストが増加するという問題を低減できる。
さらに、係争特許は、従来の滑り止め条が暗い空間において使用者に認識されにくいという欠点も改善できる。したがって、係争特許は、使用者に階段の段位置を明確に識別させる効果を提供し、施工時間および製造コストを低減することができる。
2. 係争特許の特許請求の範囲および解釈
請求項1には、次のとおり記載されている。
識別機能を有する階段用タイル構造1であって、一つの階段の一つの段上に設置される。
当該識別機能を有する階段用タイル構造1は、少なくとも以下を備える。
一つの本体11であって、第一表面111を有するもの。
少なくとも一つの突出層12であって、当該本体11の当該第一表面111上に設けられるもの。
少なくとも一つの識別層13であって、当該本体11に対応して、当該突出層12の他端面に設けられるもの。
当該突出層12は、当該本体11と一体成形されている。
当該突出層12は、当該本体11の一端部に近接して設けられている。
当該本体は第一幅W1を有し、当該突出層は第二幅W2を有し、当該第一幅W1と当該第二幅W2との比率は3対1から7対1の範囲内である。
当該識別層13は、印刷または塗布のいずれか一つの方法により当該突出層12上に形成され、当該識別層13の当該突出層12に対する他端面には、さらに一つの滑り止め層14が形成されている。
(二)係争製品の技術内容
裁判所が中華民国112年12月26日に法廷で行った、原告により切断された係争製品の検証結果および検証写真によれば、係争製品のタイル表面の同一側には、四本の濃褐色の長方形状凸条が存在する。
このうち三本の凸条の幅はいずれも0.7センチメートルであり、三本の凸条の相互間隔は0.3センチメートルである。もう一本の凸条の幅は1.2センチメートルであり、当該凸条と最も近い幅0.7センチメートルの凸条との間隔は1センチメートルである。
切断後の側面断面の観察結果によれば、凸条頂面と接続する部分には極めて細い濃褐色の縁が認められるものの、それ以外の部分はすべてタイル本体の色を呈している。
(三)係争特許請求項1の構成要件1A、すなわち前文について
請求項1の構成要件1Aについて、係争製品は一種のタイル構造である。したがって、係争製品は、「識別機能を有する階段用タイル構造」という技術内容には対応し得る。
しかし、係争製品自体は単体のタイルである。原告も裁判所の審理において、係争製品は販売時にいずれも箱単位で包装して販売されており、その他の販売態様または販売方法は存在しないと陳述している。記録上も、係争製品が箱詰めで販売されている実物写真を参照することができる。
さらに、両当事者が提出した特許侵害鑑定報告および非侵害分析答弁は、いずれも係争製品を単体のタイルとして鑑定または分析したものである。これらの鑑定および分析において、係争製品は階段の一つの段上に設置されていない。
したがって、係争製品は、係争特許請求項1の構成要件1Aが定める「一つの階段の一つの段上に設置される」という技術的特徴と同一ではない。裁判所は、この点に基づき、係争製品は係争特許請求項1の構成要件1Aによって文言上読み取ることができないと認定した。
(四)係争特許請求項1の構成要件1Hについて
請求項1の構成要件1Hについて、係争製品の突出層上には粗い釉薬層が存在し、当該釉薬層は印刷方式により突出層上に形成されている。したがって、当該構造は、「当該識別層は印刷または塗布のいずれか一つの方法により当該突出層上に形成される」という技術的特徴に対応し得る。
しかし、裁判所が中華民国112年12月26日に法廷で行った、原告により切断された係争製品の検証結果および検証写真によれば、係争製品の切断後の側面断面には、凸条頂面と接続する部分に極めて細い濃褐色の縁が認められるにとどまり、それ以外の部分はすべてタイル本体の色であった。
さらに、係争特許の主要図面を参照すると、係争特許の滑り止め層は、識別層上に独立して形成されている。したがって、裁判所は、係争製品上の粗い釉薬層について、突出層に対する他端面にはいかなる膜層も存在しないと判断した。言い換えれば、係争製品には、係争特許が開示する「滑り止め層」の構造が欠けている。
以上により、係争製品は、更正後の係争特許請求項1の構成要件1Aおよび1Hによって文言上読み取ることができない。全構成要件充足の原則に基づき、裁判所は、係争製品が更正後の係争特許請求項1の文言上の範囲に属しないと認定した。
(五)滑り止め層に関する原告の主張について
原告はさらに、係争製品の釉薬は突出層の上向きの一端面に位置し、一定の厚みを有すると主張した。また、原告は、係争製品の釉薬が焼結された後も、釉薬表面より下の部分にはなお釉薬の色が残るため、当該部分は識別層として機能し得ると主張した。
原告はさらに、釉薬表面または釉薬表層には、焼結後に複数の粗大な粒子が形成され、釉薬表面の上端面に粗さが生じると主張した。そのため、原告は、釉薬表面に滑り止め層が形成されており、係争特許が開示する「当該識別層の当該突出層に対する他端面には、さらに一つの滑り止め層が形成されている」という技術的特徴を充足すると主張した。原告は、仮に係争製品が完全に同一ではないとしても、係争製品と当該技術的特徴との間に実質的な差異はないとも主張した。
裁判所は、原告の上記主張を採用しなかった。
係争特許明細書には、「本考案の一実施例において、識別層の突出層に対する他端面には、さらに滑り止め層を形成することができる。本考案の一実施例において、滑り止め層の識別層に対する他端面は粗面である。」と記載されている。また、明細書には、「第7図も併せて参照されたい。同図は、本考案の識別機能を有する階段用タイル構造の第五の好適な実施例における滑り止め層の設置を示す概略図である。当該識別層の当該突出層に対する他端面には滑り止め層が形成され、当該滑り止め層の当該識別層に対する他端面は粗面であり、当該滑り止め層の粗面は滑り止め効果を有し、階段を昇降する使用者の転倒事故を防止する。」とも記載されている。
上記明細書の内容によれば、裁判所は、係争特許の滑り止め層は、識別層の突出層に対する他端面にさらに形成されるものであると判断した。滑り止め層と識別層は同一の構造ではなく、両者の構造も異なる。さらに、係争特許の主要図面を参照すると、係争特許の突出層、識別層および滑り止め層は、三層に区別可能な構造であると解される。
一方で、係争製品上の粗い釉薬層が、被告による印刷噴霧および焼結によって形成された事実については、両当事者間に争いがない。この事実は、係争製品上の粗い釉薬層が一度に形成された単一の膜層であることを示している。
また、裁判所が中華民国112年12月26日に法廷で行った、原告により切断された係争製品の検証結果および検証写真によれば、係争製品の突出層上の粗い釉薬層は、凸部の表層に存在している。当該釉薬層は単一の色、すなわち濃褐色を呈しており、いかなる界面も認められない。したがって、裁判所は、当該粗い釉薬層は一度に形成された単一の膜層であり、まず釉薬下層を形成した後、当該釉薬下層の突出層に対する他端面に、さらに釉薬上層を形成したものではないと判断した。
さらに、原告は、当該釉薬層を上下二層に区分できることを証明する証拠を提出していない。原告は、釉薬層表面の焼結により生じた粗さが、係争特許にいう滑り止め層に該当することを証明する証拠も提出していない。したがって、裁判所は、原告の主張のみに基づいて、当該釉薬層が係争特許の識別層および滑り止め層の双方に対応すると認定することはできないと判断した。
記録上の証拠によれば、係争製品は、突出層上に印刷方式により形成された一層の粗い釉薬層を有するにすぎない。係争製品は、係争特許が要求する「突出層、識別層、滑り止め層」という三層構造とは相当しない。したがって、裁判所は、原告の上記主張を採用できないと判断した。
七、小括
本件における、係争製品が「識別層」および「滑り止め層」を有するか否かの判断は、全体として、一般的な特許権侵害の対比基準に近いものといえる。裁判所は主として、請求項の文言、明細書の内容、図面の開示、および製品実物の検証結果に基づき、係争製品が請求項において要求される各技術的特徴を備えているか否かを判断した。
もっとも、本件において特に参考となる点は、係争特許請求項1の構成要件1Aの前文部分に関する裁判所の判断である。
一般的な事案では、請求項の前文は、技術的背景または使用環境を特定するために用いられることがある。前文に記載された周辺構成要素が発明の中核的な技術的特徴ではない場合、裁判所または鑑定機関が、当該前文の文言を直ちに特許請求の範囲の限定事項として扱うとは限らない。
しかし、本件では、係争特許請求項1の構成要件1Aに「一つの階段の一つの段上に設置される」と記載されていた。技術内容から見ると、段そのものは、本件の階段用タイル構造の主要な技術的特徴ではなく、むしろ使用環境の記載に近い。それにもかかわらず、裁判所は、「一つの階段の一つの段上に設置される」という記載を文言上の読取りの判断に含めた。そして、単体のタイルとして販売および鑑定された係争製品は、当該前文により特定された技術的特徴を満たさないと判断した。
したがって、本件は、出願人および特許技術者に対し、請求項の前文を作成する際には、前文の文言が限定事項として解釈される可能性を慎重に評価すべきであることを示している。発明の中核が製品自体の構造にあり、特定の使用環境にない場合、出願人は、環境要素を含まない別の独立請求項を作成することも検討できる。
上記のような請求項作成方法により、仮に裁判所が個別事案において、前文に記載された公知の環境または使用状態を限定事項として扱う場合であっても、特許権者は、他の独立請求項を権利主張の基礎として残すことができる可能性がある。