「SMILE」商標登録拒絶事件から見る台湾商標法第30条第1項第10号の判断基準
台湾最高行政法院113年度上字第142号行政判決
台湾商標実務において、後願商標が先登録商標と同一または類似し、かつ指定商品・役務も同一または類似する場合、商標法第30条第1項第10号により登録が拒絶される可能性がある。本件は、「SMILE」商標を第44類の眼科医療サービス等に指定して出願したところ、先登録の「SMILE及び図」商標との類似を理由として登録が拒絶され、最高行政法院においても出願人の上訴が退けられた事案である。
本稿では、最高行政法院113年度上字第142号行政判決を素材として、商標の類否判断、役務の類似性、関連消費者の認識、著名性主張の限界について整理する。
商標法第30条第1項第10号
他人の同一または類似の商品・役務について、同一または類似の商標であり、関連する消費者に混同誤認を生じさせるおそれがある商標は、登録を受けることができない。
1 事件の背景
本件の出願人は、2020年7月13日、「SMILE」商標を第9類、第10類、第42類および第44類の商品・役務について出願した。その後、当該出願は複数の出願に分割され、本件で問題となった出願商標は、第44類の「医療サービス」を指定役務とするものであった。
出願人はさらに、指定役務を「医療サービス、すなわち眼科医療サービスおよび眼科手術サービス」に減縮した。しかし、台湾知的財産局は、当該商標が先登録商標「SMILE及び図」と類似し、指定役務にも類似関係があるとして、商標法第30条第1項第10号に基づき登録を拒絶した。
出願人はこれを不服として訴願および行政訴訟を提起したが、いずれも認められず、最終的に最高行政法院も上訴を棄却した。
2 商標の類似性判断
裁判所は、商標の類似性を判断する際には、商標全体を観察すべきであるとしつつも、消費者が特に注目し、記憶に残しやすい部分、すなわち「主要部分」も考慮すべきであると述べた。
本件出願商標は、特段のデザインを施していない単純な欧文字「SMILE」から構成されている。一方、先登録商標は、黒色円形の背景の中に、ややデザイン化された白抜きの「Smile」の文字と弧状の線を組み合わせた図形商標である。
裁判所は、両商標において、消費者の印象に強く残り、称呼上も識別の中心となる部分はいずれも「SMILE」または「Smile」であると判断した。そのため、外観、称呼および観念のいずれにおいても極めて近似しており、一般的な知識経験を有する消費者が、時と場所を異にして観察した場合、または実際の取引において称呼した場合、両者を容易に区別できないとされた。
この点について、出願人は、先登録商標が図形を含む商標である以上、外観上の構成やデザインを重視して判断すべきであると主張した。しかし裁判所は、本件出願商標が単純な文字商標であり、先登録商標が文字と図形の結合商標である以上、単に図形的外観のみで判断することはできず、外観・称呼・観念を総合的に比較すべきであるとして、この主張を採用しなかった。
3 役務の類似性判断
本件出願商標の指定役務は「眼科医療サービスおよび眼科手術サービス」であり、先登録商標の指定役務は「歯科医療、薬剤調剤、医療および医薬相談サービス」であった。
出願人は、眼科と歯科は異なる医療専門分野であり、両者の類似性は低いと主張した。しかし裁判所は、役務の類似性は、実際に商標がどのように使用されているかではなく、登録または出願において指定された役務を基準として判断すべきであるとした。
裁判所は、両者はいずれも医療に関する専門知識および技術を用いて人体の疾病や症状に対応するサービスであり、台湾知的財産局の「商品及び役務分類並びに相互検索参考資料」においても、いずれも医療関連の同一グループに属すると指摘した。
また、先登録商標の指定役務には、歯科医療だけでなく、より上位概念である「医療および医薬相談サービス」も含まれている。さらに、実際の市場においても、総合病院や複合的な診療所が眼科と歯科を含む複数の医療サービスを提供することは珍しくない。
そのため、両商標が同一または類似の標識を用いてこれらの役務に使用された場合、一般消費者は、両者が同一の事業者または何らかの関連関係を有する事業者から提供されていると誤認する可能性があると判断された。
4 実際の使用状況ではなく指定役務を基準とする点
本件において重要なのは、裁判所が「役務の類似性」を判断する際、商標が市場で実際にどのように使用されているかではなく、登録または出願時に指定された役務の内容を基準とした点である。
出願人は、先登録商標が実際には歯科医療サービスに使用されているにすぎず、本件出願商標は眼科医療サービスに使用されるものであるから、混同の可能性は低いと主張した。
しかし裁判所は、先登録商標の指定役務には「医療および医薬相談サービス」という一般的な医療関連サービスが含まれており、これを歯科に限定して解釈することはできないとした。もし当該文言を歯科に限定して解釈するならば、前段の「歯科医療」と重複してしまうためである。
この判断は、台湾商標実務において、指定商品・役務の文言が広い場合、その範囲も広く解釈され得ることを示している。
5 関連消費者の注意力
裁判所は、医療サービスは国民の日常生活に密接に関係し、一般消費者が容易に接触し得る役務であると指摘した。したがって、関連消費者は必ずしも医療専門家に限られず、一般消費者も含まれる。
眼科医療サービスや歯科医療サービスは専門性を有するが、サービスを受ける側は一般消費者である場合も多い。そのため、関連消費者が常に高度な注意力をもって商標の細部の差異を識別できるとは限らない。
このような事情を踏まえ、裁判所は、両商標が類似し、かつ指定役務にも高度の類似関係がある以上、混同誤認のおそれがあると判断した。
6 「SMILE」が眼科手術名として知られているとの主張
出願人は、「SMILE」が眼科分野において広く知られており、特に「SMILE全飛秒近視レーザー手術」などの名称として消費者に認識されていると主張した。
しかし裁判所は、提出された資料における「SMILE」は、多くの場合、「SMall Incision Lenticule Extraction」の略称として、特定の眼科手術方法または医療行為を説明するために使用されているにすぎないと判断した。
すなわち、それらの資料は「SMILE」が手術方式または手術名称として用いられていることを示すものであり、出願人の商品・役務の出所を表示する商標として使用され、台湾の関連消費者に広く認識されていることを直接証明するものではないとされた。
また、出願人は、当該商標が台湾で長期間かつ広範に使用され、関連消費者に認識されていることを示すための売上高、広告費、市場占有率などの具体的資料を十分に提出していなかった。そのため、裁判所は、現有証拠のみでは、本件出願商標が先登録商標と区別できる程度に消費者に認識されているとは認められないと判断した。
7 著名商標の主張が認められなかった理由
出願人は、別件判決において「SMILE全飛秒」または「Smile全飛秒及び図」商標が著名商標と認定されたことを根拠に、本件の「SMILE」商標も著名であると主張した。
しかし裁判所は、別件で問題となった商標は、「SMILE」に中国語の「全飛秒」を結合したもの、または図形化された「Smile」を含むものであり、本件出願商標のような単純な欧文字「SMILE」とは異なると指摘した。
したがって、別件において「SMILE全飛秒」等が著名商標と認定されたとしても、そのことから直ちに、本件の単純な「SMILE」商標まで著名であるとはいえないとされた。
また、別件において一部の眼科医療機関が「SMILE全飛秒」関連のレーザー手術機器やサービスを提供していたこと、または特定の眼科診療所が高い市場占有率を有していたことも、本件出願商標「SMILE」自体が第44類の眼科医療サービスについて高い市場認知度を有することを当然に証明するものではないと判断された。
8 先願登録主義との関係
裁判所は、台湾商標法が原則として先願登録主義を採用している点も重視した。
仮に後願商標の出願人が一定程度の市場使用実績を有していたとしても、それだけで先登録商標の権利を排除することはできない。特に、後願商標が先登録商標と近似し、指定役務も類似する場合、後願商標の登録を認めれば、先登録商標権者の利益を損なうおそれがある。
本件においても、裁判所は、両商標が市場に併存すれば、消費者が両者を同一の出所に由来するもの、または関連企業、ライセンス、フランチャイズその他類似の関係があるものと誤認する可能性があると判断した。
9 実務上の示唆
本判決は、台湾における商標出願および拒絶対応において、次の点が重要であることを示している。
第一に、文字商標と文字・図形結合商標の比較においても、図形部分だけでなく、消費者に強く印象付けられる文字部分が重視され得る。
第二に、役務の類似性は、実際の使用状況ではなく、原則として指定役務の文言に基づいて判断される。特に、先登録商標の指定役務に上位概念の役務が含まれている場合、その範囲は広く評価される可能性がある。
第三に、専門分野が異なる医療サービスであっても、一般消費者から見て医療関連サービスとして共通性があり、提供主体や取引場所にも関連性が認められる場合には、類似役務と判断され得る。
第四に、ある用語が業界内で手術名、技術名、方式名として知られている場合、それが直ちに商標としての識別力や周知性を基礎づけるものではない。商標としての使用実績を主張するには、売上、広告、使用態様、市場占有率など、出所表示として使用されていることを示す具体的証拠が必要である。
第五に、別件で関連商標が著名と判断されたとしても、商標構成が異なる場合には、その判断を当然に援用することはできない。特に、複合商標の著名性が認められたとしても、その一部の文字だけからなる商標が当然に著名であるとは限らない。
本判決は、医療関連サービスにおける商標類否判断だけでなく、指定役務の解釈、周知性・著名性の立証、先登録商標との抵触リスクを検討するうえで、実務上重要な参考事例といえる。
台湾商標実務において、後願商標が先登録商標と同一または類似し、かつ指定商品・役務も同一または類似する場合、商標法第30条第1項第10号により登録が拒絶される可能性がある。本件は、「SMILE」商標を第44類の眼科医療サービス等に指定して出願したところ、先登録の「SMILE及び図」商標との類似を理由として登録が拒絶され、最高行政法院においても出願人の上訴が退けられた事案である。
本稿では、最高行政法院113年度上字第142号行政判決を素材として、商標の類否判断、役務の類似性、関連消費者の認識、著名性主張の限界について整理する。
商標法第30条第1項第10号
他人の同一または類似の商品・役務について、同一または類似の商標であり、関連する消費者に混同誤認を生じさせるおそれがある商標は、登録を受けることができない。
出願商標
先登録商標
1 事件の背景
本件の出願人は、2020年7月13日、「SMILE」商標を第9類、第10類、第42類および第44類の商品・役務について出願した。その後、当該出願は複数の出願に分割され、本件で問題となった出願商標は、第44類の「医療サービス」を指定役務とするものであった。
出願人はさらに、指定役務を「医療サービス、すなわち眼科医療サービスおよび眼科手術サービス」に減縮した。しかし、台湾知的財産局は、当該商標が先登録商標「SMILE及び図」と類似し、指定役務にも類似関係があるとして、商標法第30条第1項第10号に基づき登録を拒絶した。
出願人はこれを不服として訴願および行政訴訟を提起したが、いずれも認められず、最終的に最高行政法院も上訴を棄却した。
2 商標の類似性判断
裁判所は、商標の類似性を判断する際には、商標全体を観察すべきであるとしつつも、消費者が特に注目し、記憶に残しやすい部分、すなわち「主要部分」も考慮すべきであると述べた。
本件出願商標は、特段のデザインを施していない単純な欧文字「SMILE」から構成されている。一方、先登録商標は、黒色円形の背景の中に、ややデザイン化された白抜きの「Smile」の文字と弧状の線を組み合わせた図形商標である。
裁判所は、両商標において、消費者の印象に強く残り、称呼上も識別の中心となる部分はいずれも「SMILE」または「Smile」であると判断した。そのため、外観、称呼および観念のいずれにおいても極めて近似しており、一般的な知識経験を有する消費者が、時と場所を異にして観察した場合、または実際の取引において称呼した場合、両者を容易に区別できないとされた。
この点について、出願人は、先登録商標が図形を含む商標である以上、外観上の構成やデザインを重視して判断すべきであると主張した。しかし裁判所は、本件出願商標が単純な文字商標であり、先登録商標が文字と図形の結合商標である以上、単に図形的外観のみで判断することはできず、外観・称呼・観念を総合的に比較すべきであるとして、この主張を採用しなかった。
3 役務の類似性判断
本件出願商標の指定役務は「眼科医療サービスおよび眼科手術サービス」であり、先登録商標の指定役務は「歯科医療、薬剤調剤、医療および医薬相談サービス」であった。
出願人は、眼科と歯科は異なる医療専門分野であり、両者の類似性は低いと主張した。しかし裁判所は、役務の類似性は、実際に商標がどのように使用されているかではなく、登録または出願において指定された役務を基準として判断すべきであるとした。
裁判所は、両者はいずれも医療に関する専門知識および技術を用いて人体の疾病や症状に対応するサービスであり、台湾知的財産局の「商品及び役務分類並びに相互検索参考資料」においても、いずれも医療関連の同一グループに属すると指摘した。
また、先登録商標の指定役務には、歯科医療だけでなく、より上位概念である「医療および医薬相談サービス」も含まれている。さらに、実際の市場においても、総合病院や複合的な診療所が眼科と歯科を含む複数の医療サービスを提供することは珍しくない。
そのため、両商標が同一または類似の標識を用いてこれらの役務に使用された場合、一般消費者は、両者が同一の事業者または何らかの関連関係を有する事業者から提供されていると誤認する可能性があると判断された。
4 実際の使用状況ではなく指定役務を基準とする点
本件において重要なのは、裁判所が「役務の類似性」を判断する際、商標が市場で実際にどのように使用されているかではなく、登録または出願時に指定された役務の内容を基準とした点である。
出願人は、先登録商標が実際には歯科医療サービスに使用されているにすぎず、本件出願商標は眼科医療サービスに使用されるものであるから、混同の可能性は低いと主張した。
しかし裁判所は、先登録商標の指定役務には「医療および医薬相談サービス」という一般的な医療関連サービスが含まれており、これを歯科に限定して解釈することはできないとした。もし当該文言を歯科に限定して解釈するならば、前段の「歯科医療」と重複してしまうためである。
この判断は、台湾商標実務において、指定商品・役務の文言が広い場合、その範囲も広く解釈され得ることを示している。
5 関連消費者の注意力
裁判所は、医療サービスは国民の日常生活に密接に関係し、一般消費者が容易に接触し得る役務であると指摘した。したがって、関連消費者は必ずしも医療専門家に限られず、一般消費者も含まれる。
眼科医療サービスや歯科医療サービスは専門性を有するが、サービスを受ける側は一般消費者である場合も多い。そのため、関連消費者が常に高度な注意力をもって商標の細部の差異を識別できるとは限らない。
このような事情を踏まえ、裁判所は、両商標が類似し、かつ指定役務にも高度の類似関係がある以上、混同誤認のおそれがあると判断した。
6 「SMILE」が眼科手術名として知られているとの主張
出願人は、「SMILE」が眼科分野において広く知られており、特に「SMILE全飛秒近視レーザー手術」などの名称として消費者に認識されていると主張した。
しかし裁判所は、提出された資料における「SMILE」は、多くの場合、「SMall Incision Lenticule Extraction」の略称として、特定の眼科手術方法または医療行為を説明するために使用されているにすぎないと判断した。
すなわち、それらの資料は「SMILE」が手術方式または手術名称として用いられていることを示すものであり、出願人の商品・役務の出所を表示する商標として使用され、台湾の関連消費者に広く認識されていることを直接証明するものではないとされた。
また、出願人は、当該商標が台湾で長期間かつ広範に使用され、関連消費者に認識されていることを示すための売上高、広告費、市場占有率などの具体的資料を十分に提出していなかった。そのため、裁判所は、現有証拠のみでは、本件出願商標が先登録商標と区別できる程度に消費者に認識されているとは認められないと判断した。
7 著名商標の主張が認められなかった理由
出願人は、別件判決において「SMILE全飛秒」または「Smile全飛秒及び図」商標が著名商標と認定されたことを根拠に、本件の「SMILE」商標も著名であると主張した。
しかし裁判所は、別件で問題となった商標は、「SMILE」に中国語の「全飛秒」を結合したもの、または図形化された「Smile」を含むものであり、本件出願商標のような単純な欧文字「SMILE」とは異なると指摘した。
したがって、別件において「SMILE全飛秒」等が著名商標と認定されたとしても、そのことから直ちに、本件の単純な「SMILE」商標まで著名であるとはいえないとされた。
また、別件において一部の眼科医療機関が「SMILE全飛秒」関連のレーザー手術機器やサービスを提供していたこと、または特定の眼科診療所が高い市場占有率を有していたことも、本件出願商標「SMILE」自体が第44類の眼科医療サービスについて高い市場認知度を有することを当然に証明するものではないと判断された。
8 先願登録主義との関係
裁判所は、台湾商標法が原則として先願登録主義を採用している点も重視した。
仮に後願商標の出願人が一定程度の市場使用実績を有していたとしても、それだけで先登録商標の権利を排除することはできない。特に、後願商標が先登録商標と近似し、指定役務も類似する場合、後願商標の登録を認めれば、先登録商標権者の利益を損なうおそれがある。
本件においても、裁判所は、両商標が市場に併存すれば、消費者が両者を同一の出所に由来するもの、または関連企業、ライセンス、フランチャイズその他類似の関係があるものと誤認する可能性があると判断した。
9 実務上の示唆
本判決は、台湾における商標出願および拒絶対応において、次の点が重要であることを示している。
第一に、文字商標と文字・図形結合商標の比較においても、図形部分だけでなく、消費者に強く印象付けられる文字部分が重視され得る。
第二に、役務の類似性は、実際の使用状況ではなく、原則として指定役務の文言に基づいて判断される。特に、先登録商標の指定役務に上位概念の役務が含まれている場合、その範囲は広く評価される可能性がある。
第三に、専門分野が異なる医療サービスであっても、一般消費者から見て医療関連サービスとして共通性があり、提供主体や取引場所にも関連性が認められる場合には、類似役務と判断され得る。
第四に、ある用語が業界内で手術名、技術名、方式名として知られている場合、それが直ちに商標としての識別力や周知性を基礎づけるものではない。商標としての使用実績を主張するには、売上、広告、使用態様、市場占有率など、出所表示として使用されていることを示す具体的証拠が必要である。
第五に、別件で関連商標が著名と判断されたとしても、商標構成が異なる場合には、その判断を当然に援用することはできない。特に、複合商標の著名性が認められたとしても、その一部の文字だけからなる商標が当然に著名であるとは限らない。
本判決は、医療関連サービスにおける商標類否判断だけでなく、指定役務の解釈、周知性・著名性の立証、先登録商標との抵触リスクを検討するうえで、実務上重要な参考事例といえる。