台湾知的財産及び商業法院113年度行商訴字第67号行政判決
―「健康時刻」商標登録異議申立事件
台湾知的財産及び商業裁判所は、「健康時刻」商標をめぐる商標登録異議申立事件において、先登録商標の商標権者が死亡し、かつ相続人が存在しない場合における商標権及び商標使用許諾関係の効力、ならびに従前の販売業者が台湾商標法第30条第1項第12号に基づいて「先使用」を主張するために必要となる証拠について判断を示した。
本件で特に注目されるのは、先登録商標の商標権が権利者の死亡によって消滅した後も、従前その商標を付した商品を販売していた者が、その販売行為をもって自己による「先使用」を主張できるかという点である。
裁判所は、商標権者が死亡し、かつ相続人が存在しない場合、その商標権は商標権者の死亡により消滅し、当該商標権を基礎とする使用許諾関係もその法的基礎を失うと判断した。
さらに、従前商標の使用許諾を受けていた者や販売業者が、その後、自ら「先使用者」であると主張するためには、単に従前の商品を販売していたという事実だけでは足りず、自己の商品又は営業の出所を表示するために当該商標を使用していたことを示す具体的な証拠が必要であるとした。
1.事件の概要
本件の参加人、すなわち系争商標の商標権者は、2021年4月13日、「健康時刻」の文字からなる商標について、第31類の動物飼料、犬用飼料、猫用飼料、ペットフード、ペット用飲料、猫砂等の商品を指定して商標登録出願を行った。
同商標は、2021年12月11日、登録第02186533号商標として登録された。
これに対し原告は、系争商標の登録には台湾商標法第30条第1項第12号に定める不登録事由があるとして、商標登録異議の申立てを行った。しかし、台湾智慧財産局は2024年6月12日、「異議不成立」とする審定を行った。原告はこれを不服として経済部に訴願(行政不服申立て)を提起したが、経済部は同年10月28日に訴願を棄却した。
そこで原告は、知的財産及び商業裁判所に行政訴訟を提起したが、裁判所は最終的に原告の請求を棄却し、訴訟費用についても原告の負担とした。
2.先登録の「健康時刻」商標と原告との関係
本件では、系争商標よりも前に、別の商標権者により、同じ「健康時刻」の文字からなる登録第01762153号商標が第31類について登録されていた。原告は、当該先登録商標について、商標権者又は同人が実質的に運営していた会社等から使用許諾を受け、「健康時刻」の名称を付したペット用デンタルガム等を市場で販売していたとして、系争商標の出願前から「健康時刻」商標を使用していたと主張した。
原告が提出したFacebook上の投稿、商品写真、LINEのやり取り、取引伝票等からは、2019年から2020年にかけて、「健康時刻」の文字が表示されたペット用デンタルガムが販売されていたこと、また、原告が関連会社から商品を仕入れ、複数の店舗に販売していたことが確認された。
さらに、訴願及び行政訴訟の段階で提出された資料からも、2020年12月から2021年4月までの間、原告が「健康時刻」商標を付した商品を取引先に販売していた事実自体は認められた。
もっとも、本件では、このような「販売」の事実が、そのまま原告自身による商標の「先使用」と評価できるかが問題となった。
3.商標権者が死亡し、相続人が存在しない場合、商標権はどうなるか
裁判所が特に重視したのは、先登録の「健康時刻」商標の商標権者が2020年12月15日に死亡し、かつ相続人が存在しなかったという事実である。裁判所は、台湾商標法第47条第2号に基づき、この先登録商標の商標権は商標権者の死亡により消滅したと認定した。
また、原告がそれまで商標権者又は関連会社との間で販売・流通等の協力関係を有していたとしても、その関係は先登録商標の商標権を基礎とするものであるため、商標権者の死亡及び商標権の消滅に伴い、その法的基礎を失ったと判断した。
したがって、先登録商標が存続していた期間中に原告が行っていた商品販売を示す資料は、商標権者等との従前の販売・使用許諾関係に基づく使用を示すものにすぎず、商標権消滅後に、原告が自己の商品又は営業の出所を表示するために「健康時刻」商標を使用していたことを示す証拠にはならないとされた。
4.商標権消滅後も商品を販売していれば「先使用」と認められるか
原告は、先登録商標の商標権者が死亡した後も、「健康時刻」の商品を継続して販売していた。しかし、裁判所は、この事実のみから原告自身による「先使用」を認定することはできないと判断した。
その理由の一つとして、原告は以前から関連会社より「健康時刻」商品を仕入れて販売していたため、商標権者の死亡後約4か月間に販売された商品についても、それ以前に仕入れた商品を引き続き販売していた可能性があることが指摘されている。
また、証拠として提出された商品写真では、商品の製造者として原告とは別法人である会社が表示されていた。一方、商品の包装上には、商品の出所が原告であることを示す表示は確認できなかった。
原告は、当該製造会社と原告が関係会社であり、原告代表者が当該会社の株主であることなどを主張したが、裁判所は、両社は法律上それぞれ別個の法人であると指摘した。
そのため、提出された証拠だけでは、先登録商標の商標権が消滅した後から系争商標の出願日までの間に、原告が自己の商品又は営業の出所を表示する意思をもって「健康時刻」商標を使用していたとは認められないと判断された。
すなわち、本判決では、「商標を付した商品を販売していたこと」と、「自己の商品又は営業の出所を表示するために、その商標を使用していたこと」とは明確に区別されている。
5.系争商標と引用商標の類似性
商標そのものの類似性については、裁判所は高い類似性を認めた。系争商標及び異議申立ての根拠とされた引用商標は、いずれも単純な中国語「健康時刻」の文字から構成されている。そのため、両商標は外観、称呼及び観念のいずれにおいても類似しており、通常の知識及び経験を有する消費者が、時と場所を異にして両商標を観察した場合には容易に区別することができず、類似の程度は極めて高いと判断された。
また、系争商標が指定する動物飼料、ペットフード等の商品と、原告が先使用を主張する犬用デンタルガムについても、その機能又は性質が類似しているほか、製造者、販売経路、需要者等の点に共通性又は関連性があることから、類似する商品であると判断された。
したがって、本件において原告の主張が認められなかった理由は、商標又は商品の類似性が否定されたためではない。問題となったのは、原告自身による「先使用」を裏付ける証拠が十分であったかという点である。
6.系争商標の出願人に「模倣の意図」は認められたか
さらに原告は、系争商標の出願人が先登録の「健康時刻」商標の存在を知っていたことについても主張した。実際、系争商標の出願人は2021年4月13日、先登録の「健康時刻」商標について台湾法上の廃止手続を申し立てると同時に、同日、自ら「健康時刻」商標の登録出願を行っていた。そのため、裁判所も、系争商標の出願時に、出願人が先登録商標の存在を知っていたこと自体は認めている。
しかし、「健康時刻」は日常生活において一般的に使用され得る語句であり、また、第三者が「健康時刻」を商標又は商標の一部として各種商品又は役務について登録している例も多数存在していた。
さらに、系争商標の出願人は、法定の手続に従って先登録商標について廃止の申立てを行ったうえで、自ら商標登録出願を行っている。
このような事情を踏まえ、裁判所は、出願人が先登録商標の存在を知っていたという事実のみをもって、原告が主張する商標を意図的に模倣して出願したものとは認められないと判断した。その結果、台湾商標法第30条第1項第12号の適用は否定された。
7.裁判所の判断
本判決のポイントは、大きく次の3点に整理することができる。
第一に、商標権者が死亡し、かつ相続人が存在しない場合、その商標権は消滅し、当該商標権を基礎としていた従前の使用許諾関係等もその法的基礎を失うという点である。
第二に、従前、使用許諾を受けていた者又は販売業者が、その後、自ら「先使用者」であると主張するためには、単に従前の商品を継続して販売していたという事実だけでは足りない。
商標権消滅後に、自己の商品又は営業の出所を表示する目的で当該商標を使用していたことについて、具体的かつ客観的な証拠によって立証する必要がある。
第三に、本件では、系争商標と引用商標の類似性は極めて高く、対象となる商品についても類似性が認められ、さらに系争商標の出願人が先登録商標の存在を知っていたにもかかわらず、原告自身による先使用及び出願人の模倣の意図を認めるに足りる証拠が存在しなかった。
以上の理由から、裁判所は台湾商標法第30条第1項第12号の適用を否定し、原告の請求を棄却した。
8.実務上のポイント
本判決は、商標の使用許諾、販売代理又は流通関係が終了した後に、従前の販売業者等が同一商標について「先使用」を主張する場合の立証上の問題を示したものとして注目される。
特に重要なのは、「商標を付した商品を販売している」という事実だけでは、当然に販売業者自身による商標使用になるわけではないという点である。
販売されている商品が、従前の商標権者又は製造者の商品であり、商品の包装、製造者表示、取引資料その他の客観的証拠から見ても商品の出所が第三者にあると認識される場合には、販売業者が商品を継続して取り扱っていたとしても、それだけで当該販売業者自身による商標の「先使用」が認められるとは限らない。
したがって、商標権の消滅、使用許諾関係の終了又は事業承継等を契機として、従前の販売業者が商標を自己のブランドとして継続使用しようとする場合には、従来から保有していた在庫商品の単なる継続販売とは区別して、誰が商品又は営業の出所主体であるかを客観的に示せるようにしておくことが重要である。
具体的には、商品の包装・ラベル上の事業者表示、製造者・販売者表示、広告資料、ウェブサイト、注文書、請求書、販売開始時期等の資料を整理し、権利関係の変更後に「自己の商品又は営業の出所を表示する商標」として使用を開始したことを立証できる証拠を確保しておく必要がある。
また、本件では、両商標の類似性が極めて高く、商品も類似し、さらに後願商標の出願人が先登録商標の存在を知っていたにもかかわらず、台湾商標法第30条第1項第12号の適用は認められなかった。
この点からも、同号に基づいて異議申立てを行う場合には、商標の類似性や、相手方が先行商標を知っていたという事実だけではなく、自らの先使用の事実及び相手方による模倣の意図を裏付ける客観的証拠を十分に準備できるかが、判断を左右する重要なポイントになると考えられる。台湾知的財産及び商業法院113年度行商訴字第67号行政判決
―「健康時刻」商標登録異議申立事件
台湾知的財産及び商業裁判所は、「健康時刻」商標をめぐる商標登録異議申立事件において、先登録商標の商標権者が死亡し、かつ相続人が存在しない場合における商標権及び商標使用許諾関係の効力、ならびに従前の販売業者が台湾商標法第30条第1項第12号に基づいて「先使用」を主張するために必要となる証拠について判断を示した。
本件で特に注目されるのは、先登録商標の商標権が権利者の死亡によって消滅した後も、従前その商標を付した商品を販売していた者が、その販売行為をもって自己による「先使用」を主張できるかという点である。
裁判所は、商標権者が死亡し、かつ相続人が存在しない場合、その商標権は商標権者の死亡により消滅し、当該商標権を基礎とする使用許諾関係もその法的基礎を失うと判断した。
さらに、従前商標の使用許諾を受けていた者や販売業者が、その後、自ら「先使用者」であると主張するためには、単に従前の商品を販売していたという事実だけでは足りず、自己の商品又は営業の出所を表示するために当該商標を使用していたことを示す具体的な証拠が必要であるとした。
1.事件の概要
本件の参加人、すなわち系争商標の商標権者は、2021年4月13日、「健康時刻」の文字からなる商標について、第31類の動物飼料、犬用飼料、猫用飼料、ペットフード、ペット用飲料、猫砂等の商品を指定して商標登録出願を行った。
同商標は、2021年12月11日、登録第02186533号商標として登録された。
これに対し原告は、系争商標の登録には台湾商標法第30条第1項第12号に定める不登録事由があるとして、商標登録異議の申立てを行った。
しかし、台湾智慧財産局は2024年6月12日、「異議不成立」とする審定を行った。原告はこれを不服として経済部に訴願(行政不服申立て)を提起したが、経済部は同年10月28日に訴願を棄却した。
そこで原告は、知的財産及び商業裁判所に行政訴訟を提起した。
裁判所は最終的に原告の請求を棄却し、訴訟費用についても原告の負担とした。
2.先登録の「健康時刻」商標と原告との関係
本件では、系争商標よりも前に、別の商標権者により、同じ「健康時刻」の文字からなる登録第01762153号商標が第31類について登録されていた。
原告は、当該先登録商標について、商標権者又は同人が実質的に運営していた会社等から使用許諾を受け、「健康時刻」の名称を付したペット用デンタルガム等を市場で販売していたとして、系争商標の出願前から「健康時刻」商標を使用していたと主張した。
原告が提出したFacebook上の投稿、商品写真、LINEのやり取り、取引伝票等からは、2019年から2020年にかけて、「健康時刻」の文字が表示されたペット用デンタルガムが販売されていたこと、また、原告が関連会社から商品を仕入れ、複数の店舗に販売していたことが確認された。
さらに、訴願及び行政訴訟の段階で提出された資料からも、2020年12月から2021年4月までの間、原告が「健康時刻」商標を付した商品を取引先に販売していた事実自体は認められた。
もっとも、本件では、このような「販売」の事実が、そのまま原告自身による商標の「先使用」と評価できるかが問題となった。
3.商標権者が死亡し、相続人が存在しない場合、商標権はどうなるか
裁判所が特に重視したのは、先登録の「健康時刻」商標の商標権者が2020年12月15日に死亡し、かつ相続人が存在しなかったという事実である。
裁判所は、台湾商標法第47条第2号に基づき、この先登録商標の商標権は商標権者の死亡により消滅したと認定した。
また、原告がそれまで商標権者又は関連会社との間で販売・流通等の協力関係を有していたとしても、その関係は先登録商標の商標権を基礎とするものであるため、商標権者の死亡及び商標権の消滅に伴い、その法的基礎を失ったと判断した。
したがって、先登録商標が存続していた期間中に原告が行っていた商品販売を示す資料は、商標権者等との従前の販売・使用許諾関係に基づく使用を示すものにすぎず、商標権消滅後に、原告が自己の商品又は営業の出所を表示するために「健康時刻」商標を使用していたことを示す証拠にはならないとされた。
4.商標権消滅後も商品を販売していれば「先使用」と認められるか
原告は、先登録商標の商標権者が死亡した後も、「健康時刻」の商品を継続して販売していた。
しかし、裁判所は、この事実のみから原告自身による「先使用」を認定することはできないと判断した。
その理由の一つとして、原告は以前から関連会社より「健康時刻」商品を仕入れて販売していたため、商標権者の死亡後約4か月間に販売された商品についても、それ以前に仕入れた商品を引き続き販売していた可能性があることが指摘されている。
また、証拠として提出された商品写真では、商品の製造者として原告とは別法人である会社が表示されていた。
一方、商品の包装上には、商品の出所が原告であることを示す表示は確認できなかった。
原告は、当該製造会社と原告が関係会社であり、原告代表者が当該会社の株主であることなどを主張したが、裁判所は、両社は法律上それぞれ別個の法人であると指摘した。
そのため、提出された証拠だけでは、先登録商標の商標権が消滅した後から系争商標の出願日までの間に、原告が自己の商品又は営業の出所を表示する意思をもって「健康時刻」商標を使用していたとは認められないと判断された。
すなわち、本判決では、「商標を付した商品を販売していたこと」と、「自己の商品又は営業の出所を表示するために、その商標を使用していたこと」とは明確に区別されている。
これは、本件を理解するうえで重要なポイントである。
5.系争商標と引用商標の類似性
商標そのものの類似性については、裁判所は高い類似性を認めた。
系争商標及び異議申立ての根拠とされた引用商標は、いずれも単純な中国語「健康時刻」の文字から構成されている。
そのため、両商標は外観、称呼及び観念のいずれにおいても類似しており、通常の知識及び経験を有する消費者が、時と場所を異にして両商標を観察した場合には容易に区別することができず、類似の程度は極めて高いと判断された。
また、系争商標が指定する動物飼料、ペットフード等の商品と、原告が先使用を主張する犬用デンタルガムについても、その機能又は性質が類似しているほか、製造者、販売経路、需要者等の点に共通性又は関連性があることから、類似する商品であると判断された。
したがって、本件において原告の主張が認められなかった理由は、商標又は商品の類似性が否定されたためではない。
問題となったのは、原告自身による「先使用」を裏付ける証拠が十分であったかという点である。
6.系争商標の出願人に「模倣の意図」は認められたか
さらに原告は、系争商標の出願人が先登録の「健康時刻」商標の存在を知っていたことについても主張した。
実際、系争商標の出願人は2021年4月13日、先登録の「健康時刻」商標について台湾法上の廃止手続を申し立てると同時に、同日、自ら「健康時刻」商標の登録出願を行っていた。
そのため、裁判所も、系争商標の出願時に、出願人が先登録商標の存在を知っていたこと自体は認めている。
しかし、「健康時刻」は日常生活において一般的に使用され得る語句であり、また、第三者が「健康時刻」を商標又は商標の一部として各種商品又は役務について登録している例も多数存在していた。
さらに、系争商標の出願人は、法定の手続に従って先登録商標について廃止の申立てを行ったうえで、自ら商標登録出願を行っている。
このような事情を踏まえ、裁判所は、出願人が先登録商標の存在を知っていたという事実のみをもって、原告が主張する商標を意図的に模倣して出願したものとは認められないと判断した。
その結果、台湾商標法第30条第1項第12号の適用は否定された。
7.裁判所の判断
本判決のポイントは、大きく次の3点に整理することができる。
第一に、商標権者が死亡し、かつ相続人が存在しない場合、その商標権は消滅し、当該商標権を基礎としていた従前の使用許諾関係等もその法的基礎を失うという点である。
第二に、従前、使用許諾を受けていた者又は販売業者が、その後、自ら「先使用者」であると主張するためには、単に従前の商品を継続して販売していたという事実だけでは足りない。
商標権消滅後に、自己の商品又は営業の出所を表示する目的で当該商標を使用していたことについて、具体的かつ客観的な証拠によって立証する必要がある。
第三に、本件では、系争商標と引用商標の類似性は極めて高く、対象となる商品についても類似性が認められ、さらに系争商標の出願人が先登録商標の存在を知っていたにもかかわらず、原告自身による先使用及び出願人の模倣の意図を認めるに足りる証拠が存在しなかった。
以上の理由から、裁判所は台湾商標法第30条第1項第12号の適用を否定し、原告の請求を棄却した。
8.実務上のポイント
本判決は、商標の使用許諾、販売代理又は流通関係が終了した後に、従前の販売業者等が同一商標について「先使用」を主張する場合の立証上の問題を示したものとして注目される。
特に重要なのは、「商標を付した商品を販売している」という事実だけでは、当然に販売業者自身による商標使用になるわけではないという点である。
販売されている商品が、従前の商標権者又は製造者の商品であり、商品の包装、製造者表示、取引資料その他の客観的証拠から見ても商品の出所が第三者にあると認識される場合には、販売業者が商品を継続して取り扱っていたとしても、それだけで当該販売業者自身による商標の「先使用」が認められるとは限らない。
したがって、商標権の消滅、使用許諾関係の終了又は事業承継等を契機として、従前の販売業者が商標を自己のブランドとして継続使用しようとする場合には、従来から保有していた在庫商品の単なる継続販売とは区別して、誰が商品又は営業の出所主体であるかを客観的に示せるようにしておくことが重要である。
具体的には、商品の包装・ラベル上の事業者表示、製造者・販売者表示、広告資料、ウェブサイト、注文書、請求書、販売開始時期等の資料を整理し、権利関係の変更後に「自己の商品又は営業の出所を表示する商標」として使用を開始したことを立証できる証拠を確保しておく必要がある。
また、本件では、両商標の類似性が極めて高く、商品も類似し、さらに後願商標の出願人が先登録商標の存在を知っていたにもかかわらず、台湾商標法第30条第1項第12号の適用は認められなかった。
この点からも、同号に基づいて異議申立てを行う場合には、商標の類似性や、相手方が先行商標を知っていたという事実だけではなく、自らの先使用の事実及び相手方による模倣の意図を裏付ける客観的証拠を十分に準備できるかが、判断を左右する重要なポイントになると考えられる。