一、判決番号:
最高行政裁判所110年度上字第463号判決
二、争点:
異なる技術分野に属する技術を組み合わせる動機付けがあるか。
三、係争特許I503920:
1.対象となる技術分野及び解決しようとする課題:
本発明はOリングに関し、特に半導体製造装置に使用されるOリングに関するものである。
従来技術では、ウェハ支持台本体11と支持部材12との接続箇所に微小な隙間(漏洩箇所)が存在するため、流体3が当該隙間を通じて溝14から漏洩することがあった(場合によっては、当該隙間〔漏洩箇所〕が溝14の底部中央に位置することもある)。
流体3の漏洩を防止するため、従来技術では接着剤4を溝14内に充填して、溝14を封止していた。しかし、接着剤4はプラズマ粒子によってエッチングされ、消耗するため、長期間使用するとその封止効果が失われる。また、接着剤4の有効期間が不明確であり、定期的な補強又は交換を行うことができないため、製造工程全体の歩留まりに影響を及ぼすという問題があった。
2.技術的手段:
ウェハを支持するための半導体製造装置であって、ウェハ支持台本体と、流体供給ユニットと、支持部材とを備える。
当該支持部材は、当該ウェハ支持台本体上に設けられ、ウェハを支持する上面及び側面を有する。当該流体供給ユニットは、当該ウェハ支持台本体内に設けられ、当該支持部材の上面に載置されたウェハに流体を供給する。
当該支持部材の側面には溝が形成され、当該溝内には交換可能なOリングが設けられ、当該Oリングの断面は矩形状を呈する。
四、上告理由:
原判決は、まず「家電分野」と「半導体製造分野」とを区別し、現実の社会における両産業の実際の存在状況及び応用状況を明確にした上で、本件における経験則を形成すべきであった。
それにもかかわらず、原判決は、半導体製造分野の当業者が係争特許と証拠2、3、5及び6の内容とを組み合わせる動機付けを有すると直ちに判断した。この認定は、一般的な社会通念に明らかに反し、経験則及び論理則に違反するものであり、かつ判決理由の不備という違法がある、などと主張した。
五、証拠の組合せ
証拠1は、係争特許の明細書である。
証拠2は、日本国特開2007-194616号「半導体チップ処理方法及びその方法を用いるチップ処理装置」に係る発明特許出願である。
証拠3は、中国公開第101286469号「空隙の形成を防止するための構造及びプラズマ処理装置」に係る発明特許出願である。
証拠6は、中国公告第2197378号「多機能膨張ゴムリング」に係る実用新案登録出願である。
証拠7は、中国公告第201101429号「電気ケトル用シールリング」に係る実用新案登録出願である。
六、最高行政裁判所の判決:
係争特許の従来技術において使用される接着剤、証拠2において使用される保護部材、証拠3において使用されるシール部材、証拠5において使用されるOリング及び証拠6において使用されるゴムリングは、いずれも部材間の隙間を封止する機能を有しており、機能又は作用に共通性が認められる。
係争特許の技術内容には、隙間に封止性の高い接着剤を充填して当該隙間を封止し、流体の漏洩を防止することが開示されている。
証拠2の技術内容には、保護部材に封止機能を持たせ、ヘリウムガスの漏洩を抑制することが開示されている。証拠3の技術内容には、ゴム製の第3シール部材を用いて間隔を封止し、第2間隔への流体の流入を防止することが開示されている。証拠5の技術内容には、Oリングを用いて間隔を封止し、流体の流出を防止することが開示されている。また、証拠6には、内孔に面取りを有するゴムリングを用いて封止及び防水を行うことが開示されている。
証拠7には、「シールリングは、ケトル本体の内壁と加熱盤の外壁との間に圧接されている。シールリングは環状を呈し、その内壁は平坦であり、上面の外縁部には面取り部2.2が設けられている。外壁には、断面が台形状の2本の突条2.1が環状に設けられ、当該突条はシールリング2と一体に形成されている」旨が記載されている。
また、証拠7には、「シールリングの外壁には台形状の突条が環状に設けられている一方、その内壁は平坦に維持されて加熱盤に密着するため、漏水防止性能に優れている」旨が記載されている。すなわち、証拠7には、電気ケトルに突条を備えたシールリングを使用することにより、漏水の問題を解決できることが開示されている。
したがって、証拠7は、解決しようとする課題及び機能・作用の点において証拠1、2及び3と共通性を有し、これらの証拠には、いずれも組合せに関する示唆又は教示が開示されている。
当該技術分野における当業者には、係争特許、証拠3及び証拠7の技術内容を組み合わせる動機付け、又は証拠2、証拠3及び証拠7の技術内容を組み合わせる動機付けが認められる。したがって、証拠1、3及び7の組合せ、並びに証拠2、3及び7の組合せが成立する。
さらに、証拠3及び5には、いずれも半導体製造装置においてOリングをシール部材として使用するという技術的特徴が開示されている。このため、当該Oリングを半導体製造装置のシール部材として使用することについての示唆又は教示が既に与えられており、証拠6及び7と組み合わせることにより、係争特許が進歩性を有しないことを証明できる。
原判決は、以上の点について、心証形成の理由を明確に論述している。したがって、前記説明に照らせば、原判決に誤りはなく、判決理由の不備も認められない。
七、結論:
複数の証拠を組み合わせる動機付けがあるか否かを判断するに当たっては、原則として、複数の証拠相互間における「技術分野の関連性」、「解決しようとする課題の共通性」、「機能又は作用の共通性」及び「示唆又は教示」などの事項を総合的に考慮することができる。
当業者が、関連する先行技術に開示された内容及び出願時の技術常識を参酌し、関連する先行技術を組み合わせる動機付けを有し、かつ容易にこれらを組み合わせることができたか否かについては、原則として、関連する先行技術と特許出願に係る発明との関係について、前記例示事項を総合的に考慮して判断しなければならない。そのうち一つの事項が欠けていることのみを理由として、直ちに組合せの動機付けがないと認定してはならない。
本件は、異なる技術分野に属する証拠の組合せに関する事例である。「解決しようとする課題の共通性」、「機能又は作用の共通性」及び「示唆又は教示」などの観点から、防水性及び封止性について段階的に分析することにより、半導体分野と家電分野という全く異なる技術分野に属する証拠であっても、解決しようとする課題、機能又は作用に基づく示唆若しくは教示が認められる場合には、これらを証拠として組み合わせ、進歩性を判断するための根拠とすることができる。