チョコレート商標大戦‐消費者の誤認混同を招くか?
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チョコレート商標大戦‐消費者の誤認混同を招くか?

チョコレート商標大戦‐消費者の誤認混同を招くか?

背景

 原告である米国菓子メーカーのザ・ハーシー・カンパニー(以下、「ハーシー社」)は「HERSHEY'S」商標やしずくのような形状の商標を付したチョコレートキャンディー等の商品を製造販売しており、被告である台湾の甘百世食品工業股份有限公司(以下、「甘百世食品公司」)は「KAISER'S」チョコレートを製造販売している。

 

 原告の主張によると、被告が製造販売するチョコレート等の商品パッケージ上には原告のしずく形状に類似した係争商標が付されているが、これについて原告の同意は得られておらず、また被告の商品パッケージ上に表示された商品名「KAISER'S」の文字部分は、原告ハーシー社の「HERSHEY'S」商標の文字および表示態様に類似しているので、消費者の誤認混同を招きやすいとして、原告は百世食品公司を商標権侵害で提訴した。台湾智慧財産法院 (台湾知的財産裁判所)の審理では、両商標は類似しておらず、かつ百世食品公司の商品はすでに数十年にわたり販売されており、「KAISER'S」、「KAISER」商標は消費者にある程度認知されているため、消費者に誤認混同を生じさせることはないと判断された。したがって、判決はハーシー社の敗訴となったが、本件は上訴可能である。(ソース:自由時報電子報20170930、智慧財產法院105(2016)年度民公訴字第5號民事判決)

 

分析:

 

 本文では、係争商品上の表示が上述した原告の商標権の侵害にあたるかについて議論する。

 

 同法院は、係争商品パッケージ上のしずく形状の図形は「KAISER'S」、「KAISER」と結合され、しずく形状部分がそれぞれ濃い茶色、薄い茶色である一方、原告のしずく形状商標は「HERSHEY'S 」、「KISSES」のアルファベットと結合されており、カラーではなく、両者の文字も図形も類似しておらず、いずれも文字と図形の結合により両者の差がより際立たつことから、類似商標ではないと判断した。

 

 しかし、原告と被告のしずく形状のチョコレート商品上のマークが消費者に誤認混同を生じさせることはないと本当にいえるだろうか?

  被告の係争商品には第00091418号、第00095211号、第00708162号、第00091423号、第00708161号等の商標が使用されている。

 

 台湾商標法には、2つ以上の登録商標を組み合わせた使用を制限する規定はなく(台湾智慧財産法院102(2013)年度行商訴字第103號行政判決を参照)、被告は複数の商標を出願登録し、それらの商標を組み合わせて使用している。しかし、それらの登録商標を組み合わせて使用した結果、上の写真のパッケージは、主要なアルファベット「KAISER'S」、「KAISER」と原告商標の明らかな識別部分である「KISSES」の読み方および外観がいずれも極めて似ており、「KAISER'S」と「HERSHEY'S 」の外観も極めて似ており、さらにしずく形状の縁取り方が似ている点からも、一見しただけで双方の商品を見分けることは容易ではない。

 

 係争商品を注意深く見てみると、パッケージ上の主要な識別文字である「KAISER'S」、「KAISER」は登録商標第708162号と註冊第708161號の組み合わせからなり、これら2つの商標の出願日は原告商標の出願日より後であるが、原告商標は「HERSHEY'S 」、「KISSES」と図形の結合商標として登録されている一方、被告の「KAISER'S」と「KAISER」は2つの商標として分けて出願されており、審査で拒絶されることなく合法的な商標専用権の取得に至った。

 

原告の落ち度

1. 商標戦略の軽視:原告の主張によれば、原告は世界的に有名な大手チョコレートメーカーであり、1894年の創立以来「Hershey」ブランドの商品は世界中で販売されてきた。しかし、このブランドのしずく形状の商標が最初に登録されたのは1983年と遅く、原告が商標の国際的戦略をないがしろにしたことから権利主張が困難になった。

2. 商標出願の失策:商標図案は結合商標以外にも部分的に分けて出願すべきであった。

3. 商標モニタリングの怠り:被告の商標に対し異議申立てや無効審判を適時に行わなかったために、被告が係争商標を合法的に登録して長年の使用により知名度を得ることを原告は結果的に許してしまった。

 

  もちろん、本件は上訴可能なので判決を覆す機会はゼロではないが、被告商標の試用期間が長いため、逆転にはある程度の困難が予想される。

 

文:陳治汶

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