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北京ダック「便宜坊」の商標登録問題に見る、商標の識別性について
智慧財産法院104年度行商訴字第56号判決
係争商標
出願番号:102021988
出願日:2013年4月26日
出願人:北京便宜坊烤鴨集団有限公司(中国)
出願区分:第43類
商品または役務の名称:レストラン、旅館、宿泊施設の提供、カフェ、喫茶店、セルフサービスレストラン、ホテル、バー、茶芸館、会議室の貸与、高齢者用入所施設、託児所、動物の宿泊施設、動物の一時預かり。
北京便宜坊といえば、中国では全聚徳と並んで有名な北京ダックの老舗である。1416年に創業され600年近いの歴史を有する同店は、2013年4月に台湾で「便宜坊」の商標登録出願を行ったが、「便宜坊」の3文字は識別性を具えないという理由で拒絶査定を受けた。出願人はこの査定を不服として智慧財産法院(台湾知財裁判所)に訴訟を提起したが、裁判所は、「便宜坊」が「安い店」を意味し、飲食店サービスの性質、内容の説明に過ぎず、商標としての識別性はないとの判断を下した。北京便宜坊はこれに対し、売上高、営業実績、広告支出額などの資料を提出することなく、当該商標が台湾で広く使用された結果消費者に認知された後天的識別性を有する商標であることが立証されなかったために敗訴となり、上訴せずに判決が確定した。
分析
台湾商標法第18条では、商標とは何らかの識別性を具えた標識であると規定され、同法第29条第1項第1号では、指定商品や役務の品質、用途、原料、産地または関連する特性のみを描写する説明で構成されたものは、識別性を具えないため登録することができないと規定されている。しかしながら、先天的識別性を具備しない標識も例外規定に基づいて登録が認められる。同法第29条第2項によれば、出願人が使用し、しかも取引上すでに出願人の商品または役務を識別する標識となっている場合は、例外として登録が認められる。
本件について台湾智慧財産局(台湾特許庁)および智慧財産法院はともに、「便宜坊」は中国語で「安い店」を意味し、一般の消費者にはその店の商品価格が安いことを示す広告用語として認識され、指定役務の提供場所における価格が安いということの説明に過ぎず、当該役務の性質、内容または関連する特性の説明に属するため識別性を具えないとする判断に問題はないと認めている。本件の争点は「便宜坊」商標が後天的識別性をすでに獲得しているか否かにあり、係争商標が台湾において使用された結果すでに識別性を獲得している証拠を出願人が提出できなかったために敗訴に至った。したがって、「便宜坊」について広い使用の結果二次的意義(セカンダリーミーニング)をすでに獲得していることを証明するに足りる証拠を提出できれば、再出願が可能になる。
備考:
北京便宜坊烤鴨集団有限公司は別の商標態様「」をもって第43類、第29類を指定区分とする登録出願を行い、当該商標中の「便宜坊」および「BIAN YI FANG」の部分につきそれぞれ権利不要求を声明することにより、登録第01564540号(指定役務は「簡易食堂……」等)および登録第01579216号(指定商品は「ビーフジャーキー、ポークフロス(豚肉ベースのふわふわのふりかけ)……」等)として登録された。