一日の疲れを癒やすリラックスタイムといえば、多くの人が入浴を挙げるのではないだろうか。その始まりを告げる音楽と音声が今春、商標登録された。「ソファミ~」で始まるシンプルなメロディーに続き、女性の声で「お風呂が沸きました」と教えてくれる。日本人のおよそ3人に1人が聞いているとされる11秒ほどの音楽と音声の歴史を探った。
「ソファミ~ソドシ~ソレド~ミ~」
商標登録されたのは、住宅機器メーカー「ノーリツ」(神戸市中央区)製の給湯器のメロディーと声。1997年以降の製品から、浴槽の湯張りが完了した時にリモコンから流れるようになった。ドイツ人作曲家のピアノ曲「人形の夢と目覚め」の第2部「夢を見ているところ」の「ソファミ~ソドシ~ソレド~ミ~」というメロディーを奏でた後、「お風呂が沸きました」と告げる。
それより前はブサー音だったが、目の不自由な人らの利便性を高めるため、分かりやすい内容に変えた。担当者によると、「聞き飽きず、流行に左右されない」との理由からクラシック音楽に絞り、「風呂に入る高揚感や多幸感を感じられる」としてこの曲を選んだという。
メロディー、文言ともに97年から一貫しているが、実は細かい変更が繰り返されている。
2000~01年の製品からメロディーが更新された。リモコンのバージョンアップに伴い、給湯温度の変更など搭載する音声案内が増え、データを圧縮する必要が出てきたためだ。どうせ変更するならと、コンピューターで鉄琴の音に変換していた従来の方法を改め、シンセサイザーの生演奏に変えた。演奏は当時の従業員が担い、譜面の正確な再現は機械に劣ったものの、「耳になじみがいい」と評判はよかったという。
女性の声は声優に依頼
湯張りの完了を告げる女性の声は声優に頼んでいる。現在は、3代目も務めた5代目の声優が担っている。リモコンは5~10年のサイクルで新しいものに切り替えるため、案内する内容や種類の変更に合わせて音声も定期的に録音し直している。
各家庭に流れ続けてきた音楽と音声だが、これまで商標登録されることはなかった。商標は長年、文字や図形だけだったためで、音も認められるようになったのは15年4月から。特許庁が新たに「音商標」の登録を始め、小林製薬の「ブルーレット置くだけ」、大正製薬の「ファイトー、イッパーツ」などテレビCMでなじみ深い音声も認められている。
四半世紀の実績、認められ
ノーリツは17年7月に特許庁へ商標登録を出願したものの、18年6月、ピアノ曲と会社の結び付きが弱いことから却下された。それでも諦めず、テレビ番組で取り上げられたことやCMの放映回数、導入当時の製品カタログなど、四半世紀にわたり親しまれてきた実績を追加で資料提出し、21年3月に念願の登録がかなった。ノーリツによると、クラシック音楽を含む音声としては初の登録という。
ノーリツの20年までの音声リモコンの累計販売台数は約1625万台。販売台数を世帯数と仮定し、世帯当たりの平均人数を掛けると、日本の人口総数の3分の1に相当するという。19年1月に動画投稿サイト「ユーチューブ」の同社公式チャンネルで公開したこの曲は、約18万回再生されている。担当者は「商標登録をきっかけに、よりたくさんの人にメロディーを知っていただき、親しまれ続けてほしい」と話している。
【宮本翔平】
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